その路地をはいって右側には、彫金師の一家が住んでいる。そのお向うは二軒長屋になっていて、その一方には七十ぐらいの老人が一人で住んでいる。
五六年前に老妻を亡くなしてから、そのままたった一人きりで淋しいやもめ暮らしをしているのである。
その隣りには、お向うの彫金師の細君のいもうと夫婦が住んでいる。亭主は、河向うの鋳物工場へ勤めているので、大抵毎日その細君は一人で留守居をしている。
その路地の突きあたりの家は、そこ一軒だけが二階建になっていて、主人はやはり河向うの麦酒会社に勤めている。あとにはその老母とまだ若い細君が静かに留守居をしているきりである。そんな寂しいくらいの路地のなかに、いつも生気を与えているように見えるのは、彫金師の一家だけである