スオミ 森と湖の幻想 | 音楽ライターさんの片手間ブログ

スオミ 森と湖の幻想

Terve! SAIONです。

今回はですね。私がフィンランドに旅行に行くきっかけになった
あるテレビゲームのお話です。1992年だったかな。
"ノスタルジア 1907”というミステリーゲームに当時本当にはまってました。
知っている人は日本全人口の一握り以下だと思いますが。
脚本・台詞のお洒落ぶりはそのへんの映画の遥か上をいっています。
このゲームがきっかけでフィンランドの森と湖が見たくなってしまったのです。
そして実際にフィンランドに行ってしまったのです
ある意味人生変えられちゃいました。今回は作品のヒロインをモチーフにした作品の紹介。
ロシア革命時に国際的なスパイとして暗躍した「ロシアの霧」。これは彼女の亡命劇。
イリューシャ・グランセリウス。我が永遠のヒロイン。
まだフィンランドがロシアの占領下にあった頃のお話です。"フィクション"ですが。
長いけど秋の夜長に最後まで読んで下さい。写真も是非。
ちなみにここで出てくる皇帝はロシア皇帝のことです。

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Gransirius

かつて私は無邪気な子供だった 汚れのない瞳を持った
でもそれは偽り 私は幼い頃から仮面をつけることを覚えた
それは私を鏡の前でいつも不思議な気持ちにさせていた
私は本当はどんな顔をしているのだろうかと

権力者は私を密告者に仕立て上げた
彼らや彼女達の心の奥にあるものを
一つ残らず見つけてくるようにって
私にとってそれはゲームのようなものだった
誰一人幼い私を疑わなかった
私はそれを楽しんでいた 虫を殺して遊ぶ子供のように
あの人達は喜んでいた なんて聡明で美しい子供なんだろうって
正直私も認められることに喜びを感じていた 劇場に
そう 私とあの人達だけの秘密の劇場で 私は踊ったわ 破滅を
私のまわりで踊る破滅と死と残虐な喜びと渇いた虚栄心の中で
照明のない舞台で だってあの人達は光を何よりも恐れていた
闇に身を隠して・・・

大人になった 15の時よ 私は最高の舞台女優だった
暗殺者 愛人 少女 そして母
どんな人間にだってなれた 私は踊った
夢をみているようだった 死と破滅と密告の世界
私はすべてをこの目に映し すべてを破壊し 響き渡る断末魔と嗚咽の中を踊り続けた
あの人達がカーテンの向こうで笑っているのが見えた
でも おかしなもの 仮面がだんだん私を消していくのがわかった
私は飛び立ちたかった 自分が何処から来たのかも知らない私
森と湖の幻想を見たわ それは私だけのもの 私の幻想だった
地図にものっていない何処か

髪を切ったの うんと短く 18の時よ 私はパリにいた
絵を描くことを覚えたの それは私の空だった
私は何処までも飛んでいけるようだった
それでもたくさんの人を殺した
私をあの舞台へと連れ戻そうとした人達を 我々のもとで尽くせって
でも私はもう踊り疲れていた あの舞台に戻るつもりなんてなかった
私の部屋の枕元にはいつも銃があった ナイフもしのばせていた
人の殺し方まであの人達は教えてくれたもの
でもそれが仇になったのね
私はまるでサロメのように死をふりまいて踊っていた

メデを知っている? ギリシャ悲劇
幼い二人の自分の子供を殺した女の話
それは私が殺した私の心でもあったの
メデは王の娘をもその手にかけた
憎んでいたんでしょうね 彼女の心と彼女の夫を惑わせたことを
私も皇帝を憎んでいた 殺したかった
カーテンの後ろにいる男達のことも
舞台のラストシーンでメデは空を翔けていくの
何者も追いつけないスピードで でも私には翼なんてなかった
迎えにくる人もね

私はアメリカにいた それが20の時 船に乗ったわ
イギリスへ向かう船
その当時 私の国が滅び始めていった
怒りと恐怖と儚い希望がいくつもの命を焼き尽くしていった
滅びだった 私をつなぎとめていた世界の
あの劇場が焼け落ちる姿が目に浮かぶようだった
陽炎のようにいくつもの幻が揺らめいていた
でも私にはもうどうでもよかった
違うって思ったの 上手く言えないけれど
フィクションだったの 結局
あの世界にいた人間達もあの劇場にいた私も すべて

やっと迎えが来た それがあなた ここから始まるの
私を見つける旅が
今 私には翼がある 自分の心のままに飛び回るの
鳥のように メディアのように 私は空を翔けてゆける
聞こえてくるのは 街の喧騒 カフェの賑わい
少し困ったあなたの顔が見える
今 心はこんなにも自由 森と湖が見える

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