
これから結婚を考える人たちへ
*本稿は
『めぞん一刻』の登場人物・
音無響子さんを題材とした
架空のインタビューです。
【解説】
もし、あの頃の響子さんが
今の時代にいたなら、
結婚や恋愛をどう語るだろう。
条件、婚活、共働き、男女の役割。
時代が変わり、
価値観が変わっても、
人を大切に思う気持ちは変わらない。
そんな問いを胸に、
一刻館の管理人さんへ、
現代の結婚と恋愛について
尋ねてみました。
◇

今日は少し変わった質問を、
音無響子さんにぶつけてみることにした。
テーマは「現代の結婚と恋愛」。
結婚しないという選択、婚活、
相手に求める条件、共働き、
家事の分担、男女の役割──。
昭和の時代を生きた響子さんにとって、
現在の結婚事情はどのように映るのだろうか。
もっとも、最初から
真面目なインタビューになるとは
思っていない。
何しろ、
ここは一刻館である。
○「結婚しない」という選択について
──今は、
結婚を人生の必須条件とは
考えない人が増えています。
結婚しない人生について、
どう思いますか?
響子「いいんじゃないですか?」
あまりに
あっさりした答えだった。
響子「結婚したから
幸せになるとは限らないでしょう?
反対に、結婚しなかったから
不幸になるとも限らないですし」
──響子さん自身は、
結婚しない人生を考えたことは?
響子「……どうでしょう」
少し考えてから、微笑む。
響子「私の場合は、
そういうことを考える前に、
好きになっちゃった人がいたから」
そう言ってから、
少し照れたように笑った。
「結婚すべきだから結婚した」のではない。
「この人と一緒にいたい」と思った。
響子さんにとって結婚とは、
そういうものだったのかもしれない。
婚活について
──今は『婚活』という言葉があります。
結婚相談所やマッチングアプリなどで、
積極的に結婚相手を探します。どう思いますか?
響子「いいんじゃないですか?」
またしても同じ答え。
響子「結婚したいと思っている人が、
一生懸命相手を探しているんでしょう?
だったら、頑張ってほしいですね」
そして、
少し遠くを見る。
響子「私も昔は、
ずいぶん頑張ったんですよ」
──惣一郎さんのことですね。
響子「ええ。
私のほうから好きになったんですから」
──考えてみれば、
かなり積極的な恋愛ですよね。
響子「そう言われると……
恥ずかしいですけど」
「条件」は、どこまで大切なのか
──婚活では、年収、職業、
容姿、年齢、身長、価値観など、
さまざまな条件を設定する人もいます。
響子さんはどう思いますか?
響子「生活するんですから、お金のこととか、
いろいろ考えるのは当然じゃないですか?」
意外にも、
頭から否定することはなかった。
響子「でも……
条件が良い人を好きになれるとは
限らないでしょう?」
──確かに。
響子「それに、条件なんて、
十年後には変わっているかもしれませんよ」
少し笑って、
響子「人間なんて、変わりますもの」
響子さん自身、結婚生活の
すべてを予測していたわけではない。
幸せも、悲しみも、
思いがけない出来事も、
人と人との間には起こる。
だからこそ、
条件だけでは測れないものがある。
響子「あんまり贅沢ばっかり言ってると……
せっかく好きになれる人を見つけても、
見逃しちゃうかもしれませんよ」

朱美「あら、響子ちゃん。
五代くんなんてどう?」
響子「朱美さん!」
五代「僕ですか!?」
響子「五代さんも
話に入ってこなくていいんです!」
一刻館は今日も平和である。
○「共働き」について
──今は
夫婦共働きが普通になりました。
家事や育児も夫婦で分担する、
という考え方があります。
響子「いいんじゃないですか?」
やはり響子さんは、
あまり難しい理屈を持ち出さない。
響子「できるほうが
やればいいんじゃないでしょうか」
──五代さんが
『僕も手伝います!』と言ったら?
響子「たぶん『いいですよ、
私がやりますから』って
言っちゃうと思います」
──でも、
それで五代さんが何もしなくなったら?
響子さんの表情が変わった。
響子「……それは困ります」
──なぜでしょう?
響子「私がやるのと、
最初から私がやるものだと思われるのは、
全然違いますもの」
これは、
いかにも響子さんらしい答えだった。
自分でできることは、自分でする。
でも、
相手にも相手の役割がある。
響子「私だって、
疲れるときはありますから」
そして廊下に向かって、
響子「五代さん!」
五代「はいっ!」
響子「洗濯物、まだ取り込んでませんよね?」
五代「……はい」
響子「じゃあ、お願いします」
五代「今すぐ行きます!」
○「男女平等」について
──現代では、
夫婦も男女も対等であるべきだという
考え方が強くなっています。
響子さんは少し考える。
響子「対等って……
難しいですよね」
──難しい?
響子「だって、
人によって得意なことも違いますし、
仕事の忙しさも違うでしょう?」
そして、
響子「だから、何でも
半分ずつにすればいいって
いうことじゃないと思います」
これは、
響子さん自身が「私がやります」と
言える女性だからこそ出てくる
言葉なのだろう。
ただし、それは
「女性が全部背負えばいい」
という意味でもない。
響子「片方だけが我慢するのは、
やっぱり違うと思います」
夫婦は、
いつも同じ量を分担する必要はない。
けれど、
相手の負担を当然のものとしてはいけない。
それくらいの意味なのだろう。
○恋愛と結婚は、同じもの?
──恋愛と結婚は、
別物だと思いますか?
響子「……別かもしれませんね」
少し考えてから続ける。
響子「好きだから一緒にいたい、
というだけじゃ、
生活はできないでしょう?」
──では、
好きという気持ちだけでは足りない?
響子「たぶん」
しかし、
すぐに付け加える。
響子「でも、好きじゃなくてもいい、
ということでもないと思います」
これは響子さんらしい。
生活には現実がある。
けれど、現実だけで
人と一緒に暮らせるわけでもない。
○「結婚したら幸せになれる」
という考え方について
──結婚すれば
幸せになれる、と考えている人もいます。
響子「うーん……」
響子さんは少し困った顔をする。
響子「結婚って、
幸せになるためのもの……なのかな?」
──違うのでしょうか?
響子「一緒に暮らして、
その人といろんなことを
経験していくことでしょう?」
そして静かに、
響子「楽しいことばっかりじゃないですよ」
この言葉には、
彼女自身の人生が重なっている。
結婚したから
悲しみがなくなるわけではない。
結婚したから
人生が完成するわけでもない。
それでも、
一緒にいたいと思える人がいる。
それが大切なのだろう。

これから結婚を考える女性たちへ
─くださいでは最後に、
響子さんから、これから婚活をする女性や、
結婚について考えている女性たちへ、
何か一言いただけますか?
響子さんは困ったように笑う。
響子「私がそんな
偉そうなこと言えるでしょうか……」
少し考える。
そして、
ゆっくりと言った。
響子「……焦らなくても
いいんじゃないでしょうか」
響子「結婚したいと思ったら、探せばいい。
したくないなら、無理にしなくてもいい」
響子「ただ……」
少しだけ間を置く。
響子「もし、『この人と一緒にいたい』
と思える人に出会えたら、
その気持ちは大事にしてほしいですね」
条件も大切。
生活も大切。
仕事も、お金も、
将来のことも大切。
でも、それだけでは
人を好きになることはできない。
響子「相手に求めるものも、
もちろんあると思います。
でも、自分は相手に
何をしてあげられるのかな、
っていうことも……
ちょっと考えてみてほしいです」
──それは、
昔の響子さん自身の経験から?
響子さんは微笑む。
響子「そうかもしれません」
そして、
少し照れながら、
響子「私だって、
ずいぶんわがままでしたから」
○そして、最後の一言
──では、
結婚を迷っている人には?
響子「迷っているなら……
急いで決めなくてもいいと思います」
──婚活を頑張っている人には?
響子「頑張ってください」
──条件をたくさん決めている人には?
響子さんは、少し考えてから笑う。
響子「……ほどほどに?」
──最後に、
結婚そのものについて一言お願いします。
響子さんはしばらく黙っていた。
それから、窓の外を見る。
一刻館の古い廊下。
その向こうから、
五代くんの慌ただしい声が聞こえる。
五代「響子さーん!
洗濯物、取り込みましたー!」
響子「はいはい、
ありがとうございます!」
そして、
こちらを振り返る。
響子「結婚って……たぶん、
『この人となら、
いろんなことがあっても
一緒にやっていけるかな』って
思えることなんじゃないでしょうか」
少し照れたように笑う。
響子「完璧な人なんて、いませんもの」
響子「だから、
自分にとって大切な人を見つけたら……
その人を大切にしてあげてください」
それから、
いつもの響子さんらしく、
少しだけ現実的な一言を付け加える。
響子「……ただし、
家事を全部押しつけちゃ駄目ですよ」
廊下の向こうから、
五代「はい!」
響子「五代さんには言ってません!」
五代「ええっ!?」
朱美さんの笑い声が聞こえる。
一刻館は、今日も騒がしい。
けれど、
そんな騒がしさの中にこそ、
夫婦や家族というものの、
少し不器用で、温かい姿が
あるのかもしれない。
──インタビュー終了。
