「Can you speak English?」


そう言われて振り向くと、20代前半くらいだろうか、黒髪の彫りの深い男性が座っていた。


「少しだ。僕は日本人で、英語は少しならわかる」


そういうと、


「日本人か! お前と同じじゃないか」


と、彼は隣にいた男性を促した。


彼の隣にいた単発で緑色のポロシャツを着た東洋系の男性が、


「あ、日本人の方ですか? 僕も日本人ですよ」


と言った。


詳しく聞いてみると、日本人の彼は小西君、もう一人の男性は、エクアドル人のジョン君といい、現在、台湾に留学中で、テストが終わったので、香港に旅行に来たのだそうだ。



「今日突然、こいつがマカオ行こうって言い出して…。今日中には香港に帰るつもりですけど」


と小西君がジョンを指差す。


どうやら、このジョンが旅の主導権を握っているらしい。


「あなたはどこから?」小西君が聞く。


「僕も香港からですよ。さっきマカオに着きました。まだ宿も決めてないけど、しばらく居るつもりです」


久しぶりに、忌憚なく話せそうな感じだったので、彼らを飯に誘った。


宿は決まってないが、なんとかなるだろう。



「いいんですか?」


「久しぶりに誰かとご飯食べたいと思ったから。もしよければ」


「じゃあ、どっか繁華街っぽいところで降りましょうか」


と話していた辺りで、バスの表示に、「新馬路」という文字が見られた。



たしか、新馬路というのは、マカオのメインストリートだったような覚えがある。


とりあえず、そこでバスを降りた。




少し歩くと、町の中心と思われる広場に着いた。


真ん中に地球ゴマのようなオブジェがあり、周りの建物は軒がアーチ上になっていてヨーロッパを思わせる造りになっている。

香港とは、また一味違う風景だ。


後から知ったが、ここがマカオの「セナド広場」だった。





stillichimiya 麿、乃至は、古屋卓麿。 
後日撮影した、セナド広場。





しばらく、町をぶらついてみる。


どんなとこにするか聞くと、ジョンは「どこでも」と言った。


そこで、何軒かあるメシ屋のうち、安そうなところを指差し、


「あそこは?」と聞くと、どうもジョンの顔は芳しくない。


どうやら汚いところはイヤみたいだ。



またしばらくぶらついてみる。


こうなると、案外いい店というのは見つかりにくいもので、


なかなか決まらない。



僕がレストランを探していると、


今度はジョンが、「ちょっと服を見させてくれ」と言って、服屋に入った。



どうやら、ウィンドウから見えた、ジーンズが気になったらしい。



小西君が、僕の荷物を見て、

「すいません、重いでしょう?」

と言ってきた。


「まあ、誘ったのはこっちだから」


と言うと、また申し訳なさそうに


「すいません」と彼は言った。



その後、何軒かメシ屋を見て周り、割ときれいな食堂を見つけ、入ることにした。


それぞれに、チャーハンなどを頼み、一品料理をみんなでつつくことにする。僕はメニューに英語表記で「fried rice noodle ,vegitable and pork chop」と書いてあるものを頼む。



料理を待っていると、


「で、あんたは何歳なの?」とジョンが聞いてきた。


「26だ」

と答えると。


ジョンは目を丸くして、

「26!? 俺はてっきり19歳ぐらいだと思った」と言う。



外国人、特に欧米系の人から見ると東洋系の人間はやはり若く見えるようだ。



「君は何歳?」と聞くと、


「21歳だ」と言う。

 

「僕から見れば、君は24・5歳に見えるよ」と、片言の英語で言うと。


「ああ、まあそういうもんだよな。みんなそういう」と言っていた。


留学中の台湾でも同じようなことを言われるのだそうだ。



メシが来たので食べながら、これから、とりあえずポルトガルを目指して旅をするのだ、と言うようなことを話した。



「それは何のためにやってんだ?」


とジョンが聞くので、言葉に詰まった。


何のため、と言われると、よくわからない。旅するために旅してる、とでも言うのだろうか。それもどうか、とは思うが。



英語でそれをうまく伝えられそうにないので、



「観光だ」と言っておいた。





「僕は台湾は行ったことないけれど、どんな感じなの? 香港と似た感じ?」


と聞くと、小西君は、


「イヤイヤ、もっと田舎っすよ。まあ台北辺りがいくらか都会かなってくらいですね」


と言って、ジョンも、


「ああ、台湾は田舎が多い。クソ田舎だぜ」


と言っていた。


まあ、香港に比べればそうなのかも知れない。



彼らは香港に宿があり、今日もそこに帰るつもりだそうだが、そんな遅くまで船はあるのだろうか、と思い聞いてみると、


「ああ、フェリーは24時間出てるんで、大丈夫ですよ。それに、フェリー乗り場と僕らホテルも近いんで」


と、小西君が言う。


「ふうん。香港島から出てるフェリーはそうなんだ。なんてホテル?」


「ラマダホテルってとこです」


「ええ? 俺、香港行った日にそこ泊まったよ!」 


「ホントですか?!」


「つうか、いいホテル泊まってんだね」


「ええ、まあ短い旅行ですし。それに彼、かなり金持ちなんで」


と小西君はジョンを指さす。


「なんでも実家は農場経営してるとかで、マイアミの大学から交換留学として台湾に来てるんです。なんかそれ聞くだけでも、金持ちっぽいでしょ?」


エクアドルの農場経営も、マイアミの大学も想像がつかないので、


「なんか凄いね…」


と惚けるしかなかった。



「ところで、アンタ。クラブがどこにあるか知らないか?」


ジョンが突然聞いてきた。


「は? クラブ?」


今日、大荷物を持って初めてマカオに来た人間に聞く質問じゃないと思うが…。



小西君が申し訳なさそうに言う。


「すいません。なんかコイツ、ナンパしたいみたいで…。カジノには行ったんですけど、カジノはやっぱりそういう感じじゃないでしょう? で、どこかにクラブないか探そうって、バスに乗ったところで…」


会ったらしい。僕と。



「ふーむ。俺もさっき来たばかりだから、流石に分からないけれど、マカオはやっぱり、クラブとかよりもカジノなんじゃあ、ないの? クラブだったら、香港の方がいっぱいあるような気ィするよ?」


「あ、香港のクラブも行ったんですけど、そこじゃあナンパ上手くいかなかったみたいで」


「そうか。…役に立てずにゴメンね」




メシを食べ終えて、外に出た。




「それで二人はこれからどうするの?」


「また、あたりをブラブラして決めようかと……」


「ひょっとして、またカジノにも行く?」


「ああ、行くかもです。ジョンがMGMってホテルのカジノに覗いてみたいって言ってたんで」


「じゃあ、俺も一緒に行っていい? どうも一人で入るの、ちょっぴり怖くて」

「あ、僕らはいいですけど、古屋さん、まだホテル決めてないでしょ?」


「ああ、すぐ決めてくっから、ちょっと待ってて」



近くで目に付いた「新中央酒店」というところに駆け込み、シングルルームの値段を聞く。


一泊220HKドル。


まあ、一晩くらいならと考え、そこに部屋を取った。



部屋に荷物を置いて、ジョンと小西君と再び合流した。



「お待たせ。どうしようか。とにかくそのMGMってホテル行こうか」


「そうですね。けど、僕ら地図も持ってきてないんですよ」


「あ、俺持ってるんで」


と、ホテルのカウンターから拝借した地図を広げて、MGMを目指した。



新馬路を東に進む。


10分ほど歩いただろうか。


もうすぐ、リスボアカジノが…見えて…。



!!!



stillichimiya 麿、乃至は、古屋卓麿。 
写真じゃ伝わらんものである。



こいつはすごい。


これは…なんと言ったらいいのか。



過剰なくらいゴージャスだ。



リスボアカジノと、その向かいにある新館、グランドリスボア。


「おおおぉ。ちょっとここ、入っていいかな?」


「あ、はい。いいですよ」


三人でグランドリスボアに入ってみる。


ボーイが居たので、ジョンがクラブがないかを聞く。


どうやら、「D2」という名のクラブが近くにあるそうだ。

そして、そこ以外にクラブはない、とのこと。



どうやら、今日の最終目的地はそこになりそうだ。



行き場所も決まったことで、グランドリスボアのカジノの中に入ってみる。






スゲエ…。



ディーラーがカードをシャッフルし、ルーレットを回し、チップを繰る。


舞台では、ロシア人ダンサーが、「それはヒモだろ?」といった感じのコスチュームに身を包み、扇情的なポールダンスを踊る。


カジノは撮影厳禁なので、写真を残せないのが非常に残念だが。


まさに別世界。


言葉は陳腐だが、「映画で見たような」世界が目の前に広がっていた。



凄すぎるぞオオオォォォ!!



こいつは、香港よりも刺激的だぞ。マカオよ!



フロアをうろついていると、「ガシュッ、ガシュッ、ガシュッ」


という音が耳に引っかかった。


その方を見ると、ガラスケースの中に入った3つのサイコロがテーブルの真ん中にある卓があった。


テーブルには、大きく右に「小」、左に「大」という升目があり、その下に細かな数字などが並んでいる。


どうやら、これが大小らしい。



他にも、ルーレットやバカラ、ブラックジャックなどの卓が並んでいる。


しかし、どこの卓も、カジノというイメージとは掛け離れた客層だ。


夕方、八百屋で大根を値切りそうなオバちゃんとか、善良そうなメガネの中年男性、うら若い女の子(それもドレスなんか着てない、普段着という感じ)が、席を並べて、目の前のサイコロに見入っている。


「カウボーイビバップ」3話において、カジノのシーンがあるが、あんな感じ。ヨレヨレの服着たオッちゃんが一心にカードに見入っている。


みな東洋人ではあるが。


これが、マカオか。



これなら、僕のような者も、安心してカジノを楽しめそうだ。


ウキウキしながら歩いていると、ジョンが上の階に「京の舞踊」という文字と、日本女性らしき写真を見つけて、


「行こう!」と、僕らを促した。



ジョンはとにかく、ヤリたくて仕方がないらしい。


「そんなにやりたいなら、回遊魚(マカオの売春婦)のとこ行けば?」


と言ったが、どうもそれはイヤらしい。


チョッピリ面倒な男である。



上の階に行くと、どうやらここは、別途に料金がかかるストリップ劇場らしく、女の子と話ができそうな雰囲気ではない。




「ここは女の子と話ができるのか?」としきりにジョンが係員に訪ねているのを、


「何だかなぁ……」と横目で見つつ、ストリップに出ている女性のラインナップを見ていると、ある、一人の女性の名前が目に飛び込んできた。



黒沢愛



ナ、ナント。


あのAV女優、黒沢愛嬢が、ここに居るというのだ!



黒沢愛とは、2000年代前半に活躍していたAV女優だ。


見事なFカップのバストと、ハスキーボイスがチャームポイントのステキな女優さんだった。


僕も何度もお世話になったもんである。



その彼女が何故に、マカオの、カジノの、ストリップ劇場で、もろ肌をドズバーっとお披露目しているのか?!



彼女に一体何が……?!




そんなことに驚愕している僕とは別に、どうやらここがそういう場所ではないことを悟ったジョンが、


「ダメだ。行こうぜ」


と言ってきた。



後ろ髪引かれつつも、僕らはグランドリスボアを後にした。








続いて、リスボアカジノに入ってみる。



こちらは、グランドリスボアに比べると、なんと言うか、庶民的な匂いのするカジノだった。



客層も、より、普通のオバちゃん・オッちゃん率が高い気がする。



僕はここで、「大小」に挑戦してみることにした。



空いている卓を見つけて、椅子に座る。


100HKドル紙幣を広げて出すと、ディーラーの女性は、緑色のチップを二枚出して寄越した。


1枚50HKドルということだ。



ガラスケースに蓋がされ、ディーラーがボタンを押す。


「ガシュ、ガシュ、ガシュ」と3回、サイコロが振られる音がする。



モニターには過去20回の出た目の記録が表示されている。



まだよく分からないので、取りあえず「大」に50ドル賭けてみた。



ディーラーが手を交差させて、金を打ち鳴らす。


「ノーモア・ベット」


モニターに表示が出る。


ディーラーが蓋を開けると、


賽の目は「3・5・6」


合計すると、「14」となる。


テーブルの大の升目が点灯し、そこに置いてある僕のチップが倍になって帰ってきた。


3つのサイコロを振り、目の合計が12以上であれば「大」、11以下であれば「小」となる。


確立は2分の1で、オッズも2倍である。


他にもさまざまなかけ方があるが、これが大まかな「大小」のルールだ。



続けて、今度は「小」に50ドル賭けてみる。


これも当たり、合計200HKドルになった。


僕はさらに100ドルを2回賭けて勝利し、計400HKドルを手にしたところで、席を立った。



「良かったっすね」小西君が言う。


「うん。面白いね」


意外と簡単なもんだ。そう思いつつ、チップを現金に換えた。


大勝ちしようと欲をかかなければ、良い小遣い稼ぎにはなるかもしれない。



その後、ウィンホテルのカジノを冷やかして、MGMグランドホテルに入る。


MGMのカジノ入り口に来ると、ジョンが入り口のセキュリティの男性(空港にある金属探知のくぐるヤツ、あれがどのカジノにもあって、セキュリティが立っている)と話し始めた。


どうやらそこはVIPエリア直通のゲートだったらしく、通れるかどうか聞いているらしい。


「OK、アミーゴ」と言ってセキュリティの男性は僕らを通してくれた。


VIP席を通ると、そこは、さっきのリスボアカジノと違って、何というか、勝負場と言った感じだ。


真っ黒い服の、マフィア然とした男がタバコを燻らせながら、カードを握っている。


「コ、怖エェ~」


足早に通り過ぎ、一般エリアに入った。


MGMのカジノは全体的に、落ち着いた感じだった。


ルーレットの卓があり、しきりにジョンが誘ってきた。


「アンタやんないか?」


「イヤ、俺はさっき大小やったからいいよ」


「そうか…、(小西君に)お前はどうだ?」


「僕はさっきブラックジャックやって300ドルスッたじゃん。もういいよ」


「そうか…、(僕に)やっぱりアンタやらないか?」


どうやら、自分がやりたいのだが、一人でやる勇気はないらしい。


5回くらいその問答を繰り返したろうか、


「OK、そんなにやりたいんならいいよ! 付き合うよ!100ドルだけな」


苦笑しながら僕が折れて、ともにルーレットの卓に着いた。


赤か黒に賭けるのであれば100HKドル。それ以外の数字に賭ければもっとミニマムベッットは低いが、取りあえず「黒」に賭けた。


ジョンは「7・8・9・10・11・12」のライン賭け。


ルーレットが回り、玉が投入される。


結果は、


「29(数字の記憶ははっきりしない28かも)の赤」


一気に100ドル消えた。


ダメだこりゃ。


ジョンも「オォウ」と言って卓を離れた。




今日は、カジノはこれくらいで良いか。と言うことになり、グランドリスボアのボーイが言っていた「D2」というクラブに行ってみることにした。


時間は11時半。しばらく地図とにらめっこして、ようやく「D2」を見つけた。


店内に入ってみると、まだ客はほとんど入っておらず、女性客も2~3人くらいしかいない。やはり平日はマカオも人が少ないのか。


マネージャーらしき男に聞くと、

「2時くらいにならないと客は来ないよ」とのこと。


一度外に出て、これからどうするか相談する。


「平日なんだし、仕様がないよ」と小西君。

「どうする? どうしたい?」としきりに聞いてくるジョン。

「好きにしなよ」と僕。


いかんともしがたく町をブラブラする。


あ、この感じ。どうも懐かしいと思ったら。



大学時代、友人のM君やN君と、こんな感じで色んなところをうろついていたものだ。


大学生っぽいなぁ。


ウロウロする2人に付き合いながら、そう思った。





走行するうちに時間が経ち、1時に近くなった辺りでもう一度D2に向かう。


かなり客が増えており、5・60人くらいは入っているだろうか。


ジョンは喜び勇んでオンナノコを捕まえに消えていった。


僕はといえば…、日本のクラブでもろくにナンパできないのに、ましてやマカオで成功できようか?


話しかけても、やっぱり出鼻からコミュニケーションが成り立たず撃沈。


仕方なく踊りまくり、3時間位してから帰った。


帰り際「こんな遅くまですいません」と言っていた小西君。


最終的に、かなりおばさんチックな女性と一緒になっていたジョン。


僕は帰ったが、あの後2人はどうしたんだろうか?


ジョンがあの女としっぽり行ったら、小西君は1人で何を?


また会う機会は限りなくゼロに近いとは思うが、気になるところである。