※夢の出来事を文章化したものです
「ねえ!ねえ!さとみじゃない?!」
駅のホームで誰かが叫んでいる。けれど私はさとみという名前ではないので気にすることなく出口へ続く階段を目指していた。今は学校のミステリーサークルが終わった帰り道である。お昼は何食べようかなあ、昨日はパスタ食べたからー今日はー…。
考えを巡らせていたら肩に物凄い力が加わり、そのままぐるりと強引に振り向かせられる。見れば全身ふりふりした、ゴスロリ風の可愛らしい格好をした、ええと…少々太っていらっしゃる女の人が立っていた。パワーすご…。
「なんで無視すんのよ!」
「ええと…どちら様で…?」
「アンタさとみでしょ?」
「全然違いますけど」
やけに自信満々に言われたが私はさとみではない。未だに掴まれたままの肩から手を払う。痛いなあもう。それじゃとさっさと退散しようとしたところで、再び同じように肩を掴まれた。んだこのデ…ああいえ、少々太ってらっしゃる方…。
「この際さとみじゃなくても良いわ、ちょっと付き合って」
いややっぱなんだこのデ…こいつ。
なんなんだろうこの状況。駅からすぐ近くでお昼からやっていたお祭りに、初対面のゴスロリデ…。えーと、いいやもうフリフリしてるからフリフリにしよう。フリフリに付き合わされている。目の前で焼きそばをすするフリフリ。私も焼きそばにしようかと思ったけど同じにするのもなんか癪なのでお好み焼きにした。…というのに彼女の手元にはお好み焼きと更にたこ焼き、袋に入ったわたあめまである。わたあめに関しては三袋もある。いつの間にそんな買ったんだ…動けるタイプかこのフリフリ…。
大人しく食べ終わるのを待って、それから帰らせてもらおうと思っていたのに、フリフリは私が食べ終わるより先に全てを平らげていた。はええ…。
「で、相談なんだけど」
「はい?」
どうしてそうなった。初対面なのに唐突にも失礼にも程がある。あからさまに嫌な顔をしているのに、フリフリはそれをスルーして話を続けようとする。なんかもう面倒臭くなって黙ってそれを聞く。聞くだけ聞いて無理ですと言って帰ろう。
まとめると、友達と連絡がとれなくなって、住んでいるアパートを訪ねたのだが、それにも応答がないらしい。で、その友達が、さとみさんということだ。そりゃまあ、勘違いだけどさとみさんを見付けたと思ったらあんな腕力になるわけだ。…いや元々かな。そういうのは警察に相談するべきなんじゃないのか、と提案するも、それはまだだめなのよ、と曖昧に返された。まだ?
頼まれたことは断れない性分で、結局フリフリと共にさとみさんが住むアパートにやって来た。ごく普通のアパートを想像していたけれど、なんともまあお洒落な、白く塗られたコンテナがモチーフのアパートだった。実質部屋は一つ一つのコンテナということになる。アパートっていうよりもコンテナ街だ。
「こっちよ」
さとみさんの部屋はそのコンテナ街の奥の方にあった。少し地面から高さが合って、玄関へ行くには三段の階段を使うようだ。フリフリがインターホンを押す。やはり応答はない。近くにあったポストを覗いてみると、郵便物が溜まっていた。
階段から降りたフリフリが同じようにポストを確認すると、なにか考え込むようにして私を見た。
「ねえ」
「なんでしょう」
「あなたは此処を開けられるでしょう」
「…はい?ピッキングなんて御免だし出来ないっての」
「開けられるわよ」
「何言ってんの…」
いきなり頼まれてついて来てやってるのに、訳のわからないことを言われて不快に感じる。もう無視して帰るべきかな。来た道を戻ろうとしたところで、フリフリは私のカバンを指差した。
「その中にあるもの」
一体何があるというのか。私の持ち物しかねえよ、と最早キレ気味でカバンの中を見せてやる。チリン、と聞き慣れない音がした。え?、驚いて中を見れば、鈴の付いた、見慣れない鍵が入っていた。なにこれ。得体の知れない鍵にぞわりとする。まさか。おそるおそる玄関を見る。フリフリはそうよ、と頷いた。
苛々していた先程とは一変、私は恐怖を感じながら、震える手で鍵を持ち、玄関の扉を前にしている。開くのか?この鍵で。どうして私が持っているの?疑問は浮かぶも、開くはずがない、と言い聞かせ、鍵を押し込む。入ってしまった。鍵穴が合っているのだ。どうして…。回してみる。カチャリ、と音が鳴る。開いてしまった。嘘でしょ…。ドアノブに手をかけたところで、フリフリが待って、と制止した。
「私が開けるわ」
「……」
無言で一歩退いて、フリフリの様子を窺う。ゆっくりとドアが開かれる。広くない、どちらかというと狭い部屋が見えてくる。ベッドが見えてきた。そこに、――――女の人が、横たわっていた。外傷はなさそうで、寝ているようにしか見えないが実際はどうなのか。というか私に全くと言っていいほど似てないんですけど…。フリフリが中へ入って行く。私は足が動かず、それを見ていた。
「やっと見つけられた…、さがすのに苦労したのよ」
横たわる女の人に話し掛けるフリフリ。ベッドから視線を外してみると、壁には不気味なポスターが貼られていて、なんとも悪趣味だと思ってしまった。そのポスターの横を見て、目を見開く。――写真がたくさん貼られていた。友達と撮った写真かと思ったのだが違う。全て私の写真だった。
「あのね」
いつの間にか目の前まで来ていたフリフリに身体が跳びはねる。
「さっきあなたのカバンに勝手に鍵を入れたのは私なのよ」
「…意味が…わからないんだけど…」
「あなたは彼女が好きだった人なの。駅ですれ違う程度の面識しかなかったから、あなたはあの子のことなんて知らないと思うけれど」
肩を掴まれる。だめだ。逃げないと。そう思うのにメキメキと音が鳴るほどに強い力で振りほどけない。ろくな抵抗も出来ず、部屋へと引きずり込まれる。玄関の扉が勝手に閉まった。逃げないと。逃げないと。掴まれた肩を捻り、必死に離そうとして、フリフリの手を掴んだ。が、感触がおかしい。人間の手ではないようなザラザラした感触。そして細さ。こんな腕じゃなかった、とフリフリを見れば。
「ヒッ…」
赤黒い、言うならば悪魔がそこにいた。もうフリフリの面影など無い。床に叩きつけられ、痛みに耐えながら起き上がろうとすると、床に転がっていた本が目に入った。“黒魔術”、“悪魔との契約”。これは――。下卑た笑いが部屋中に木霊する。悪魔の笑い声だ。
「こいつはお前になりたいんだとよ、そのためにオレと契約したんだ。今はその準備のために一週間くらい前から眠ってもらってるがな」
「けい…やく…」
「お前を連れてくるのは面倒だったがこれも仕事なんでね、悪く思うなよお嬢ちゃん。今からお前の魂もらって、代わりにこいつの魂を入れるから。まあお前はこいつになるかと言うと違ってだな、お前の魂とこいつの魂のない身体はオレの報酬として金になるからヨロシク」
なんだってこんな回りくどい真似をして此処まで連れてきたんだ。それにわざわざ私のカバンに鍵を入れる意味もわからない。此処に連れてくるのが目的なら、最初から扉を開けておいたってあら、開いているわ、で解決したはず。
私の疑問を感じ取ったのか、悪魔はご丁寧に説明してくれる。人間の魂は恐怖を感じた後の方が高価になるらしい。その為の子芝居だったと。ついでに言えば酔狂な、クレイジーな脳を持つ人間の身体も高価らしいのだ。つまり鍵をきっかけに恐怖を感じていた私と、私になりたいと思っている頭のネジが外れたそこの彼女の身体は両方合わせれば中々儲けられるということだ。
そして悪魔は仕事の時じゃないと人間に化けられないらしい。外見もその時によって勝手に決められるとか。悪魔界の掟なんて考えたこともなかったし知る由もなかったが結構縛りがあるのね。
…なんてのんきにしてられる状況じゃないけど。死ぬかもしれないなら突破口を探るまでだ。ミステリーサークル入ってるんだよ舐めんなよ…。
「……ちょ…ちょっと待って」
「なんだ命乞いなら聞かねえぞ」
「いや…そう、そうだ、私と、私とも契約してくれない?」
「はあ?」
「私とも…というよりは、そこの女の人の契約を破棄して、私と契約してくれない…かな?ふふ」
舐めんなとは言ったものの悪魔の姿を見る度、恐怖は倍増だ。声も情けなく震えている。恐怖によって変な笑いも出てしまった。ああ…魂高価になっちゃう。
悪魔がそんな要求吞むこともなく、ふざけんなよと声を荒げると床を思い切り踏み抜いた。ひいいこわ…。
「あ、悪魔は…人間になっている時じゃないと人間界の物は買えないの??」
「当たり前だろ、こんな姿で買えるか」
「悪魔なんだから盗んだりはしないの…?」
「それは窃盗だろ」
「え、それはそうだけど」
悪魔のくせにルールはしっかりとしているらしい。悪魔のくせに…。
もう良いだろと鋭い爪を持った手が伸びてくる。ああ待って待って…一か八か、輝け私の推理!!
「私と契約してくれたら!!わたあめ買ってあげるよ!!!!作ってもあげられるよ!!!!!」
「……なんだと?」
悪魔の動きがぴたりと止まった。い、いけたか…?これいけるか…?!
「あなた、わたあめ大好きなんでしょ!!仕事がないときはわたあめ買えないんでしょ?でも私が買ったり作ったりすれば、悪魔の姿のままでも、いつでもわたあめ食べられるよ!!」
お祭りでは他にもたくさんの屋台があったのに、この悪魔はわたあめを三つも買っていた。しかも美味しそうに、一瞬の内にして食べてしまっていた。残念そうにわたあめ屋の方を二度見していたのも印象的だったし。見た目恐ろしいくせに可愛いものだ。…いや嘘やっぱり怖い。
調子に乗るんじゃねえぞ、と今度は首を掴まれた。
「オレはなにをすればいい」
「え。」
「ああ”?!オレはわたあめもらう代わりになにすればいいって聞いてんだよゴラ!!」
「ひい!大声出さないでよ怖い!!」
不良かよこいつ!ていうかえ?交渉成立すんの?マジでわたあめ好きなの?
「わ、私を殺さない…ならいいよ」
「それじゃ契約にならねえ、継続しれくれねえと食い続けられねえ」
「ええ…継続しないといけないんですか…」
「お前がいつでも、って言ったんだろうが」
「そうでした…ならええと…危ないことから守ってくださるとか…家事をやってくださるとか…」
「……」
ボディガード?家政婦?悪魔が?おかしくねと自分でも冷や汗が流れる。ギラギラ光る切れ目が怖いですマジで怖いやばいごめんなさい嘘です!!
がしっとそれはそれは力強く両手を握られた。いや最早潰されたに近い。おおおううう寒気が!!!!!骨折れる!!!
「契約成立」
それはそれは不適な笑みを浮かべた悪魔は真正面から言い放った。マジか。
「た、ただいま~…」
学校が終わっていつも通り家に帰る。自分の家なのにこそこそするのはもう察してほしい。奥からずかずかと足音がする。可愛らしいピンクのエプロンをつけた悪魔さんが玄関へと向かってきた。わあ可愛い…くない怖い怖い。
「報告は!!?」
「な、なにもありませんでした至って良好な一日でしたハイ」
「お腹は!!?」
「す、すいてます!!」
「今日はオムライス!!!」
「はいいい!!!」
一々大声出すのはほんとにやめてほしい。リビングに向かえば彼とは違う悪魔がひいふうみい…解せぬ。その悪魔たちと食卓を囲み、オムライスをつつく…ケチャップで書いてあるこれはなんだろう…、もこもこした枠に一本の線…あ、わたあめかな…。
無言でそれを見ていたらこれを作ってくれた彼は圧力が凄すぎる眼でこちらを睨んでいた。慌てて美味しいよ、わたあめ可愛いね、うふふ、と言ってみるとどうやら100点満点の答えだったらしい。上機嫌に当たり前だコノヤローと暴言(?)を吐いてきた。周りの悪魔も美味いっす!流石先輩!!とか褒め称える。こいつらかなりの頻度で居座ってるけど契約違反と見なしちゃだめなんですかね!?
お皿は洗うと申し出て、全員分の食器を洗う。リビングではわたあめを作る機械でわいわいとわたあめ作りが始まっていた。やっぱ他の悪魔いるの契約違反だろ。その内の一匹…一体?がこちらへやってきて、至極嬉しそうに言ってきた。
「あんた先輩がいるから一生彼氏できねえな!」
「……」
「あだ?!!!」
洗い掛けのまな板で遠慮なくぶんなぐってやった。頭に泡ついたけど知らね。
「オイ洗い終わったらさっさと風呂に入っちまえ!!沸かしてあるからよ!!!」
……もう彼氏いなくてもいいかもしれない、その考えは血迷っただけだと思いたい。
奇妙な契約
「わたがしが導いたふわふわの奇跡…ヒヒヒウケる!!!」
「アンタまたぶんなぐられたいの?」
―――――――
後半はオリジナルで書いてみました。
ツッコミどころが多いけどそれはドリームだと思ってスルーして頂きたい←
こういう悪魔ならいても……いや怖いな。
ホラーミステリーかと思いきやギャグでした。
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