矢と的
交際の章より
矢と的
ある時、ある若者が友から受けた言葉にひどく心を痛めた。
若者はその仕打ちをなかなか忘れることができなかったので、
長い間、友情に対して心にしこりを残した。
ある時、その事を賢者に打ち明けた。「いつまでも痛みを覚え苦しんでいます。
どうしたら忘れる事ができましょう」と。
すると賢者は答えて、「友の仕打ちを悪意と思わぬこと」と。
敵の仕打ちを覚える者は
いつまでの心にしこりを残そう
傷口をむやみと触る者は
傷の直りを遅らそうから
君が痛手の癒えを願うなら
友の仕打ちを許さねばならぬ
矢が的に向かって言った。「耐える秘訣は何か」と。
曰く、「そなたに悪意を覚えぬから」と。
物の満足と情の歓び
青春の章より
物の満足と情の歓び
私はある時、ある有名な富者にこう聞いたことがあった。
「物の満足と情の歓びはどちらがまさりましょうか」と。
するとその富者は答えて、「物があれば情の歓びは二倍になりましょうが、
情がなければ物の満足を語ることはできますまい」と。
おお友よ、椅子を買うなら二人掛けを買え
君の心の友を迎えるために
たとえ満足に腰掛けようと
その歓びを語るときが持てぬなら
愛する者の訪れを待つときのように
片時もじっと腰掛けてはおれぬだろうから
世の約束事
信心の章より
世の約束事
ある時、私はある信心深い人にこう聞いたことがあった。
「神への信心を胸に覚え始めると暮らしにどのような変化が表れましょう」と。
するとその人は答えて、「散らかっていた不必要なものが家の中からなくなり
ました」と言った。
必要なもの以外求めない者は
不必要なものによって悩まされない
君が信心を胸に抱くなら
世の約束事から開放されよう
道連れ
私はこの人生の旅路でめぐり会った友を、生涯の道連れにしょうと幾度か願ったことがあったが
それには至らなかった。ある時、私は賢者にこの事を打ち明けた。
賢者は、「友情は道連れにはなるまい」と言った。
なぜなら、「彼もまた、生涯の道連れを自分の人生の中に見つけようとしているから」と。
交われば友を得
立ち去れば友と断ち切れよう
すべては君の意のままに事は運ぼう
しかし、何人も君の歩みに合わせはすまい
彼もまた、自分の意のままに事を運ぼうから
友情の深さ
青春の章より
友情の深さ
ある時、友の友情に不安を抱いたある若者が、賢者に救いを求めた。
「私によせる友の友情の深さを知るにはどうしたらよいでしょう」と。
それに賢者は答えて、「友に対する君の気持ちの深さを問え」と。
その人が礼を尽くすほどにしか
君はその人に礼を返すまい
友の情けを知ろうとするなら
まず、友によせる君の情けを問わねばならぬ
和解
交際の章より
和解
長年、敵と言い争っている者がある時、賢者にその心中を吐露した。
「敵と和解をしたいのですが、それを弱さと見られるのが嫌で今日に至っています」と。
それに賢者は答えて、「和解を求める寛大な手に、敵の頑なな驕りは恥じ入ろう」と。
敵と和を結ぶための忍耐は
敵と言い争うための勇気に勝る
下積み
労働の章より
下積み
一代で財を成した亡き成功者が、後世の若者のために自分の墓標の句に
こう書き記していた。「下積みは成功への種蒔き」と。
おお友よ、下積みは成功への種蒔きと私は聞いた
楽をして富を願う君が、いつこの日を見ようか
もし君が人生の収穫時に豊作を望むなら
若き日に種まく苦労を厭ってはならぬ
驕り
交際の章より
物事はつねに浮き沈みをするものである。
強者も弱者に負い目をおい、弱者も強者に向かって驕る時がある。
たとえ君よりも弱い者であれ
一たびその者の家に招かれたなら
君はその者に従わざるを得ないだろう
いずこも君の天下と考えるな
人の強さはただ、自分の家にいる時だけ
避難所
ある時、ある人が突然の災難に襲われ逆上して
無思慮にも立ち向かっていったばかりに事は悪化してしまい
その後の人生を不幸なものにしてしまった。
その様子を知った賢者は言った。「禍と言い争うのは賢明ではない」と。
もし君が災難と不運に出くわしたなら
辛抱してこれを見過ごせ
勇気と決断は時には必要とはいえ
忍耐こそ唯一の避難所というもの
旅先で途中、風雨に見舞われた旅人が
軒下で風雨をしのいだ
かれは空を見上げてこうつぶやいた
「この空模様もながくはつづくまい」と。
志し
ある時、ある若者が賢者に問うた。
「自分の人生を大きくするためには何が必要でしょうか」と。
すると賢者は答えて、「志し」と。
おお若者よ、君、志しを抱け
君の人生を大きなものにするために
志しは人生を注ぐ水瓶であるから
君は自分の情熱でこの中に水を満たせよ
ある時、水を求める村人たちが
井戸に水を汲みに行ったが
その時、一番大きな水瓶を持って行った者が
誰よりも大量の水を持って家に帰った
