『なんだこいつ?』

それが私のアイツに対する第一印象。

当時、若かったせいか顔はそこそこ綺麗で確かにかっこよさもあったけど、別にストライクにタイプってわけでもなく…

妙に自信過剰なナルシストで、面白いけどバカな奴だった。

『白馬の王子様』なんて自分で言ってるアイツがバカに感じられて、あだ名は『ハクバカ』。

別に変に意識することもなく…

私もその時はまだゅっちゃんと付き合ってたりして、男友達が両手の指で数えるぐらいにしかいない私には、どうやって彼氏と男友達を両立していけるのかがわからなかった。

だから連絡もあんまり取り合わなかった。

mixiぐらい。

Xのライブになぜか一緒に行って…

そこからだ、アイツを男として意識したのは。

私の病状とかそうなった経緯を話してて、初めてだった。

頭撫でながら『よく頑張ったね』なんて言ってくれた人。

それが堪らなく嬉しかった。

嬉しくて嬉しくて…

ゅっちゃんと別れたことで彼氏なんて欲しいと思わなかったし、彼氏がいたら勉強の支障になる。

…だったのに私は完全に惚れた。

自分から人を好きになったことのなかった私はこの気持ちをどうしていいのかまるでわかんなかった。

『やばい、惚れちゃったー』なんてよく言い触らしたっけ。

妙に衝動的な性格のせいか、そっからはアイツの気持ちを振り向かせることに必死だった。

『会いたい』

『山梨きてよ』

絶対に口にできないって思ってた言葉を、バカみたいにアイツに放ってた。

きてくれるなんて期待してなかった。

アイツは私に興味なさそうだったし。

前の彼女さん亡くして恋愛ができなくなってて、そんな人を振り向かせるだけの魅力が私にあるなんて思ってなかったし。

沢山の女友達の中の一人。

そんなん嫌だったけど仕方なかった。

実際『お前ならすぐ彼氏できるだろ?』って言われたし。

好きな人に言われても嬉しくないっつの。

忘れもしない5月9日。

山梨にきてくれることになった。

バカみたいに舞い上がった。

嬉しかったよ、とてもね。

念入りに化粧とかしちゃったし。

女だけど性格とか男っぽい私が、人生で一番乙女っぽくなった日だったかもしれない。

仕事のあとにきてくれたから、アイツはクタクタだった。

まだ肌寒かったけど、二人でフル公の夜景見に行った。

夜景の綺麗なとこ行きたいっていうアイツの希望だった。

…そのあとだ。

忘れられない。

いきなりチューされたんだっけな。

私はかなりパニくった。

嬉しかったけどパニくった。

本気?

遊び?

わかんなかった。

『え?なんなん?』って聞いた。

そんで返ってきた言葉。

『お前なー気付けよ。』

…なにをだよ。

『好きでもねえ女に会いにわざわざ山梨なんかくるかよ』

………?

その時からカップルになった。

かなり照れたなー。

嬉しかった。

めちゃくちゃ嬉しかった。

でも恋人同士になったからって関係が変わったとかはなく、友達の延長線上って感じの仲。

友達期間が長かったってのもあって、本当に素が出せる関係。

それが妙に居心地がよくて。

いっぱいケンカもした。

バカみたいに泣いてアイツを責めたりした。

連絡なくて不安になったりした。

何度も危機があった。

それでもそばにいてくれた。

私の中で失いたくない人に変わってった。

学生でいるうちは、会えないの寂しいけど遠距離で構わなかった。

無性に会いたくなることもあったけど、住んでるの北杜と八王子だったし…

友達と遊びたかったしバイトもあるし勉強もしなきゃで、恋人はそこまで近いとこにいなくてもよかったってのが学生ん時の私の考え。

アイツはメールも電話も頻繁にする奴ぢゃないから、それが不安で仕方なかったんだけどね。

晴れて上京することになって、一気に近距離になった。

引っ越してすぐの頃もアイツはよく遊びにきてくれた。

私が会社辞めて、転職活動がまったくうまくいかなくて自暴自棄になってた頃、一番当たったのがアイツと親だった。

親にもめちゃくちゃ迷惑かけたと思う。

そりゃ親も心配だよね。

でも心配なんかいらないから仕事がほしかった。

親とのケンカのイライラをアイツに当ててた。

…よく嫌にならなかったと思うよ。

お金使わせちゃったりして。

私は完全にワガママになってたし。

あの時東京で一人ぼっちだったらって考えると恐ろしい。

マジで電車に飛び込んだと思う。

仕事決まって、沢山決まって断らなきゃって贅沢な悩みを抱えるようになった時、アイツもすごく喜んでくれた。

小さな会社のパートみたいなもんだけど『京王なんて簡単には働けないんだから、お前よかったぢゃねえか。頑張ったな』って。

また私は仕事をするようになった。

時は流れて今。

ここ三日ぐらいはマジな危機だった。

思い出すのキツいから、あんまり書きたくないけど…

別れるかと思った。

冗談ぢゃなく思った。

いけないのは間違いなく私。

でも別れたくなかった。

失いたくなかった。

アイツ以上なんて現れない。

嫌だ。

苦しい。

辛い。

『もう俺のこと待たなくていいよ。お前に疲れた』

…ああ。

心臓をナイフでグサリとされたぐらい、痛くて重い言葉だった。

そう言われても仕方ないことをしたのは私なんだ…

私のせいだ…

バカだ、バカだ、バカだ。

パニックだった。

アイツに嫌われるぐらいなら生きていたくない。

もうおしまいだ。

私の人生なんて…

気付いたら大量に薬飲んでた。

手を切った。

頭クラクラ。

叫ばなきゃいられないぐらい胃に激痛が走った。

呼吸困難だった。

アイツとは連絡が取れないまま。

パニック状態の私は夜中に家を飛び出した。

終電に乗って京王八王子駅まで行った。

そっから八王子駅に乗り換えて高尾まで行って、アイツんちに行く、会ってくれなくても行く。

完全に思考もやることも暴走状態だったけど、いても立ってもいられなかった。

でも京王八王子に着いた時、立ってられないぐらい体がおかしかった。

薬の過剰摂取の影響だけど。

歩くこともままならない。

無念だと思いつつ、タクシーで家に帰宅。

バカな私はまた薬飲めばよくなるだろうと思って、薬ガバガバ飲んだ。

当然の如く悪化。

眠れず、痛みと苦しさに耐える長すぎる時間。

仕事に行けなかった。

変わってもらうという情けなさ。

社会人失格だ…

そんなこんなで一日家でグダる。

アイツからの連絡はない。

無駄に過ぎる時間。

こんなにパニック起こしたのはいつぶりだろう。

夜やっと携帯鳴った。

なんだかんだ…

別れなかった。

よかった、よかった、本当によかった…

泣いた。

嬉し涙と安堵の涙。

アイツも『本当は寂しかった』って言ってくれた。

『寂しかったけど、それよりもお前に対して疲れてた』って。

謝ることしかできなかった。

こんなのさ、アイツぢゃなかったから完全に私振られてるんだろうな。

アイツでさえやばかったぐらいだし。

失わなくてよかった。

失いそうな時に相手の大切さに気付いても遅いんだ。

普段から二人でバカみたいに言い合いできる時間も、本当は特別で奇跡みたいなもんなんだって…

改めて思い知らされた。

一度好きになったらなかなか嫌いになれないもん。

別れた人のことも引きずるのは年単位。

それも数ヶ月しか付き合ってなかった男でもね。

アイツとは二年半以上付き合ってて、私が十代ん時からの知り合いだし…

別れたらどんだけ引きずってたんだろう。

ボロボロだったんだろう。

考えると恐ろしいな。

これからは幸せを大事にしよう。

そんで感謝をしよう。

改めてアイツの大切さに気付かされた。

だから出会った時のことも思い出しちゃった。

本当…

私、アイツのこと愛してるみたい。