まだ先の話ではあるが、妻から出産についての相談があった。
出産時には可能な限り立ち会って欲しい
というのが彼女の要望だった。
みゅの願いで俺に出来る事であれば何でもすると思っていたが、この要望には返事に詰まってしまった。
俺をジッと見る妻に、はっきりとした返事を出来なかった。
この話題はいつかは出るだろうと予測はしていた。
していたが、結論を出せずにいた。
そんなに迷う事か?と言われればそれまでだ。
だが俺はすんなりと答えを出せずにいる。
出産は女性がその性機能を最大限に発揮する機会だ。
新たな命が生まれてくる神聖な場であるとも言える。
そんな神聖な場に俺が立ち入っていいものなのだろうか?と思えてならない。
たとえ俺の子が生まれようとしている場であってもだ。
前の記事で、俺が踏み込めない母と子のつながりを見たと書いた。
出産まではそのつながりがあるものだと考えるべきかもしれないと思うのだ。
実際、俺も妻と一緒に入ったところで何が出来るのかと訊かれたら答えることは出来ない。
何も出来ないとしか言えない。
出産に関しては男はどこまでも無力なのだ。
それでも、妻は俺に立ち会って欲しいと言う。
ビデオで撮影して欲しいとか言わない、ただ自分の見えるところに居て欲しいと言う。
陣痛で苦しい状況にある時、自分の視界の中にあなたが居てくれたら心の支えになるからと。
妻の言葉は素直に嬉しかった。
気持ちの部分で俺を求めてくれているのが解ったからだ。
だが、本当に支えになりえるのだろうか?
そんな疑問もある。
男は黙って子供が生まれてくるのを病院の廊下なり、ロビーなりで待っているべきなのかもと思うのだ。
あと1つは、少しばかりの恐怖心か。
命懸けで出産する妻の姿をまともに見ていられるのだろうか?
落ち着いていられるだろうか?とも思う。
俺の方が動揺してしまうかもしれない。
臆病者と言われても仕方ないが、それも本音の一部分だ。
俺は何も出来ないが、みゅが望むのなら応じるべきなのだろうか?
まだ時間はあるが、迷い続けている。