短編小説 街影8
男が蓋をあける
あっ、、
風呂桶の中には長い人毛と思われる黒く細い繊維の束に
それに包まれるようにして 半分白骨化したヒトが膝を折り曲げるように横たわっていた
着ている服装から それが女性とわかる
黒く干からびた肉片がまだ体のあちこちに見られた
男は自分の首にかけていた携帯電話とおぼしき端末をいじる
すると その遺体の横に置かれていた別の携帯電話が鳴り出した
聞き慣れた曲が流れ出した
エーデルワイス
男は哭きながらその曲を潰れた低い声でなぞる
女の顔を確認しようと 風呂桶を覗きこもうとした矢先
男はエーデルワイスを1ループ聞き終わるや否や 風呂桶に顔を突っ込み 遺体の股間部分の骨をしゃぶり出した
遺体をよく見ると 唇 胸 そして股間の部分だけ綺麗に肉が無くなっていた
男は股間から胸 唇と同じように それぞれの骨をしゃぶりながら 恍惚とした顔で涙を流しながら叫んでいた
しかし
不思議なことに
俺はこの薄気味悪い男の異常な行動を嫌悪するどころか
男に同情し 涙が込み上げ また羨ましくも思った
何故だかは分からないが
エーデルワイスの調を聞いてから
不思議と男の感情 感覚 苦しみ 欲求 その全てが自分の中に入り込み 男と自分がシンクロしていくのが分かった
男が風呂場で快感に喘いでいると
ふと 何かガラスの割れるような 耳をつんざく音が部屋中に響き渡った
ガッシャーン
急に目の前が明るくなり 男の姿が視界から消えた
そして 突然
つづく