以前から気付いていた事実なのですが、自己実現欲求の段階まで到達した自己実現者は、マズローに興味を持たない傾向があります。自らが自己実現者の特徴にピタリと当てはまっているにもかかわらず、彼らにマズロー関係の著書を読むように勧めても、「今度読んでみるよ」と軽くいなされてしまうのです。決して読みません。
彼らがマズローに関心を持たない理由としては、二つ考えられます。一つには、マズローや自己実現を誤解していること。確かにインターネット上には、マズローの原著を読んでいないのに、他人のウェブを勝手に引用して、マズロー批判、自己実現批判を展開する人々が数多くいます。これでは、マズローはインチキなのだ、と思ってしまうでしょう。
もう一つは、自己実現者はすでに自己実現欲求の世界にいるので、もはやマズローを必要としないこと。欲求階層説は、自己実現欲求へ成長していくために満たしていかなければいけない欲求構造を解説したものです。だから、もはや必要がないのかもしれません。逆に言えば、マズローに惹かれる人は、自己実現に達するための方法を模索している、すなわち、まだ自己実現していない人と言える可能性があります。
となると、マズロー自身は自己実現していたのか、という皮肉な疑問が湧くかもしれません。けれども、マズローが自分自身の研究によって自らを否定する、とはおかしな話です。多くの人々が認めるように、マズローは自己実現欲求の段階にいた、と言えるでしょう。
マズロー研究会 会長
渡辺博文