sagechinのブログ

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主に仕事にまつわるボヤキです

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仲の良いE君は私より一回り下の28歳。志高くいつかはグローバルに出ていくことを夢見るある外資のMRである。今の病院を僕が担当したときに、同じ診療科を担当するMRとして配属された彼は、生意気だが素直なとこもあり、他社ながらよく話をする。

そんな彼がきょう、とても落ち込んでいる。「sagechinさん、どうしましょう。先生を怒らせました。」
そつのない彼にしてはめずらしいことだ。しかも、件の怒った医師は学究肌で温厚、声を荒げたりしたことは数年担当していて一度も見たことがない。「いったいどうしたの?」と私は尋ねた。

話はこうである。近々開催するとある研究会で講演をその医師にしてもらうことになった。講演自体は快諾いただいたそうだが、ひとつ課題があった。
この会社では、講演で使用するPPTを事前に本社に提出することが規約で必要になっている。そのことについての了承をいただかねばならない。E君曰く、事前の説明で理解はしていただいていたとのこと。「御社のお立場は理解しました。でも世知辛いですね。」と医師はいったそうだ。

ところが、

スライドの一部に本邦の使用量とちがう用量を用いたデータが使われていた。海外のメジャー誌に掲載されたもので、今後本邦でも知見を集める必要性を紹介するため入れられたスライド。彼は規約については重々承知していたが、医師がなぜそのデータを入れたのかもよく理解できたので、本社には医師の考えを付記し、スライドを審査に回したらしい。

ところが、審査部門はそのスライドの使用について、Noと伝えてきた。
適応外のスライドがあるため、講演の際はそのスライドを抜くように指示されたとのこと。

納得いかない彼は、再度本社の担当者に意図を説明し、適応外の使用を促進する目的ではない、と話すが、聞き入れてはもらえなかった。

それで彼はやむを得ず、Drにその通り講演の際はその部分を触れないように依頼した。

そうすると、医師は静かにこう答えたそうだ。

「このデータは、自身の知見を伝えるのに必須である。まして、海外の雑誌にもアクセプトされたものである。なぜそれを引用してはいけないのか?この部分は薬の宣伝とは関係なく、おたくにとやかく言われる筋合いはない。だいたい、今回の講演は世話人の○○Drの依頼をうけお引き受けしたもの。お宅に頼まれたわけではない。この講演を最後に、お宅の依頼は金輪際受けない。」

このように言われてしまい、彼は大いに困っている。

最近一部の外資ではスライドのチェックを求めるところがあるようだ。しかし、これはあまりにも医師へのリスペクトを欠いている。

製薬会社の企画する講演会は医師が医師に対して行うもの。話し手も聞き手も専門家である。臨床上困っているケースで、海外ではこんな風な使い方が進んでいるとメジャージャーナルに掲載された知見をもとに紹介されることが、そんなに悪いことなのだろうか?それも講演のごく一部で。

製薬会社の社員が適応外のものについて話すことと、医師が講演で適応外について触れることは本質的にちがう。製薬会社の社員は適正使用に与せねばならず、相手が求めない限り、添付文書にない使用法について話することが許されないのは当然である。

その基準を、なぜ実際に臨床を行っている医師に当てはめるのか?

医師の発表スライドは医師の知的財産の集積だと思う。それに会社の論理を押し付けるのはいかがなものか?幸いsagechinの会社はまだそんなことにはなっていないが、同じ業界にいる人間として、それはないだろうと憤りを感じる。

訴訟対策か何だか知らないが、1から10まで適応症にない話をする医師はいないはず。
思考停止の悪例を見た気分がした。