誰が為に餌はある | ハペトロジストの脳ミソ

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1999年生まれのハイイエロー♂、その娘で2011年生まれのハイイエロー♀️2匹含む計10匹のレオパを飼育中。
タイトルの由来はハペトロジー(herpetology)から。

ここ十年位で爬虫類の飼育事情もだいぶ様変わりしました。


ヒョウモントカゲモドキは人工飼料が発売されたことで餌の昆虫が苦手な人も飼えるようになり、飼育数の急激な増加に繋がりました。


人工飼料の登場により誰でも気軽に、手軽に飼育出来るようになるのは、一見すると良いことのように思えてきますが、そのデメリットはあまり表沙汰にはされません。


商品を紹介するブロガーさんやユーチューバーさんは企業からの恩恵を受けられなくなるからメリットしか言えないでしょう。

ショップ店員は売るのが仕事ですから、余程な事がない限り買ってもらえる方向に話を進めるでしょう。



さて、人工飼料を完全栄養食として与えることが出来、終生飼養されるペットとして代表的なのは犬ですが、これは彼らが元来雑食傾向が強いからこそ人工飼料のみでの飼育が成り立っています。



犬の人工飼料は完全栄養食のドッグフードとして大別すると、ドライ、ウェット、モイストの3タイプがあり、主な原材料はいずれも穀類と肉類を合わせたもので、その割合は商品により様々です。

犬は顎や歯の形成や健康の為にある程度硬いものを噛む必要があり、噛むことで脳も活性化されます。

ゆえにドッグフード以外にも噛むことを目的とした牛皮のガムや豚耳等のオヤツや副食を与えることが大切です。



実験動物として活躍してきた小動物も人工飼料のみで飼育出来るとされるペットです。

例えばハムスターやマウス、ラット等の齧歯類や完全草食のウサギやモルモットなど。

しかし完全草食のウサギとモルモットに関してはペットとして飼う場合、歯と腸内環境の為にも人工飼料はあくまでも副食として与え、主食は牧草が良いとされています。


人間の赤ん坊も例外ではなく、軟らかいものばかり食べていると顎が正しく形成されず、脳の発達や活性化にも影響するので、段階を追って歯応えのあるものに移行しますし、何でも口に入れて遊ぶ時期には歯固めという口に入れて良いおもちゃで遊ばせます。

年齢が上がればお煎餅などの歯応えのあるオヤツを推奨されたり、食事もよく噛んで食べるよう指導されます。

また、赤ん坊だけでなく高齢者の認知症予防としても噛むことの大切さは注目され、咀嚼回数や咀嚼力が脳の血流を良くし、活性化することがわかっています。


そんな人間用にも完全栄養食は存在しており、食品の3つの機能を考慮して様々なタイプのものが開発されています。

食品の機能とは、

一次機能:栄養補給(健康、成長)

二次機能:嗜好性(見た目、食感、匂い)

三次機能:生体調節(細胞分化、神経系、循環系等)

の3つに分けられ、いずれも欠けてはならないとされていて、特に二次機能の嗜好性は生き物が腐敗や異物に気付く為にも重要な機能です。



さて、ヒョウモントカゲモドキの人工飼料はそれだけで累代飼育が可能であると謳われていますが、食品の機能を考慮された商品は果たして存在するでしょうか?

主に商品化されているものはゼリー状、ペースト状。

ドライフードはふやかしてから与えます。


確かに生命活動を維持するための栄養素を満たし、消化吸収には優れているのですが、噛むことの重要性や消化力については考えられていません。


本来は主に硬い甲虫を喰らい、時々遭遇する自分より小型のトカゲ類等も食べるといいます。

彼らは野生の厳しい環境下で粗食に堪え、栄養を効率良く蓄える身体を持っています。


硬い甲虫は消化も悪いですが、それを捕らえて噛み呑み下すことは彼らの身体構造的にも自然なこと。

飼育下におかれて見た目は変わっても、内臓機能に差はありません。

野生下では栄養バランスを考えて餌を探すこともなく、遭遇したものが餌となるのです。


人工飼料は栄養バランスが安定している上に、昆虫単体より高カロリーで消化吸収に優れているので、与え過ぎれば肥満になります。

回数を減らしたり量を減らしたりで調節すれば肥満は避けられますが、人工飼料のみでは咀嚼力や消化力は身に付きません。


『せっかく人工飼料に慣らしたのに昆虫を与えたら、人工飼料を食わなくなってしまう』というのは飼い主の都合です。

慣らせば両方、餌として認識します。


実際、十年程昆虫のみで飼育したヒョウモントカゲモドキを人工飼料に餌付かせるのは思ったより簡単でしたし、1年後に再び昆虫に戻したからと言って人工飼料を全く食わなくなるということもありません。

食うか食わないかは、その時の彼らの気分や個体差、人工飼料の商品次第です。


代謝性骨疾患という病気は、ヒョウモントカゲモドキにおいても発症しがちな病気とされますが、主な原因としてカルシウム不足や内臓疾患が挙げられるとされます。

これは一概にカルシウムの摂取や内臓疾患というだけでなく、成長期における食餌内容にも関係があると思います。


近年ショップで販売されるヒョウモントカゲモドキは、幼体時から軟らかい人工飼料に慣らされてきた個体が増えており、昆虫そのものを口にせずに育成される個体も少なくないでしょう。



コオロギ、デュビア、ミルワーム等の昆虫を食べさせられることの意味は、単に餌として腹を満たす為ではなく、特に成長期においては重要な役割を持つ噛む力や消化力を養い、ストレス解消や脳の活性化に繋がるという点を忘れてはなりません。


活き餌は最も良い餌となりますが、生きた虫が苦手なら冷凍でも缶詰でも真空パックでも良いのです。

昆虫が苦手、見るのも嫌という人も、“可愛い”“最愛”の家族の健康と長寿を願うなら、彼らの為にも是非克服してほしいです。