「風鈴の空は荒星ばかりかな

芝不器男が詠んだ夏の句だ。
風鈴は夏の季語、荒星は冬空にギラギラ輝く冬の季語、夏と冬、二つの季語を入れて詠んだこの句に不器男の若さ故の自信と、命への惜別を感じる。

芝不器男(しばふきお)は1903年愛媛県に生まれ1930年26歳で亡くなった夭折の俳人だ。

「あなたなる夜雨の葛のあなたかな

芝不器男は東大を中退し、郷里愛媛に帰るも再び東北大学に学んだ。
伊予の故郷から二昼夜かけて仙台に向かった不器男は、旅すがら夜雨にけぶる葛の花を見る。
高浜虚子が不器男のこの句をこう評している。
『絵物語のように真っ暗な部分があって、それから少し明るい夜雨降る葛の茂る山の光景が描き出され、再び長く黒くなる。この闇は遠い郷里を思う情緒である』と。

「向日葵の蕊を見るとき海消えし

不器男は鮮烈な色彩を一瞬に捕えて作句する。
紺碧の夏の海と鮮やかな黄色の向日葵。その青と黄のコントラストを一瞬に詠み取る表現はあたかも俳句を絵に映したようだ。

「白藤や揺りやみしかばうすみどり

藤の白い花と若葉の緑。爽やかな風が白と緑の移ろいを彩り、情景を風の動きに合わせて映し取っていく。
芝不器男、彗星の如く俳壇の空を通過した夭折の俳人。実は初めて句集を手にした。今まで知らなかった不明を恥じるのもさることながら、まだ新しく知ることで感動を覚える感受性に感謝しよう。