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3.京都議定書ホスト国としての無自覚

 日本は20年前、京都議定書成立のホスト国として環境をリードするかに見えた。

 しかし日本の京都議定書第一約束期間(2008~12)のCO2排出量は90年比1.4%の増加となり、法的拘束力のある90年比マイナス6%の達成は極めて困難になった。そこで日本政府は、森林吸収分3.9%に足して東欧から5.9%分のCO2を高額の排出権取引で買い取り、やっと90年比マイナス6%を達成した。一方EUは約束期間を前倒し、更に90年比マイナス8%というEUの削減義務を11.8%と大幅に上回る削減を行なった。

 そして日本政府は、2013年自ら京都議定書の枠組みから撤退し議定書解体の引き金を引いた。こうした日本政府の姿勢は経産省が一貫して温暖化対策は経済にマイナスになると考えていることの表れであり、その思想が現在の石炭火力発電の輸出にもつながっている。


4.パリ協定が世界を支配する

①カーボンプライシング Carbon Pricing

 カーボンプライシングとはCO2排出量に価格を付け売買できる仕組みを言い、京都議定書で考案された排出権取引の元になるものである。

 2005年、EUは既に域内排出量取引制度を設けた。CO2排出量取引が行われるためには炭素が売買される前提として、市町村や企業や大学に年間のCO2排出量を割り当てる必要がある。つまり京都議定書で先進各国が負った削減義務或いは排出上限を、国内の行政機関や企業等に割り当て、守ることができなかった組織に法的ペナルティを課すことだ。

 それは日本政府が京都議定書の約束期間内に達成できなかったCO2排出量を東欧から買ったように、国内の行政機関や企業間でCO2排出量を売買する仕組みである。

 例示すれば、年間排出量が100tと決められたAB社のうち、A社は120tB社は80tCO2を排出したとすると、A社はB社の余った20tを買うことで削減義務を守ることができる。A社にとっては余分に排出したCO2はコストとなる一方、B社にとってはCO2削減はインセンティヴになる仕組みだ。

 そしてEUに続き最大のCO2排出国である中国が排出量取引制度を2018年にも設けることが決まった。

 カーボンプライシングが可能となることで、CO2は企業や行政機関にとって明確なコストとなり、更に単なるコスト以上にシャドーカーボンプライス、つまり投資計画や事業計画の策定の重要なファクターとなり融資条件にもなってくる。


②新たな革命

 世界は今、新たな革命を前にしている。

 この革命は思想や宗教によるものではなく気候変動によるものだ。

 人類は巨大な変化の前に立っている。この変化、つまりこの革命を自ら導き成功を手にすることもできれば、アンシャンレジームとして過去のものとなるのかはそれぞれの国の指導者と国民次第だ。


 EUと中国はクリーンエネルギーと電気自動車に巨額の投資を行なっている。

 EVで先端を走っているのはBMW2017年のEV生産台数が10万台を超え2020年からEV車の大量生産を始め、25年には全車種をEV化すると発表した。またディーゼル排ガス偽装で遅れをとったVWEV200、バッテリーに500投資すると発表した。

 中国は国産EV車生産を進め、2025年には内燃機関を使った車には加重の税金を課すと発表した。

 自動車のCO2排出量は2012年現在で25t、使用した石油は225600t、世界の石油使用量の54%を自動車が占めている。この数字を見ればエンジンを使用した自動車が如何に地球温暖化に寄与しているのかが分かる。

 つまり勝負は決まったのである。ハイブリッド車で圧倒的優位に立ったトヨタ自動車は、ハイブリッド技術のドグマに陥り誰も追随できない技術を確立した。しかしその技術は結局は過去の技術である化石燃料の効率化でしかなかったのだ。後10年でトヨタは解体されるか、少なくともトヨタ本社を頂点とした内燃機関のピラミッドは瓦解するだろう。

 ソフトバンクはウーバーテクノロジーの株式購入の合意が成立したと公表した。

 AppleGoogleはスマホを介して車を根本から変えようとしている。米のウーバーテクノロジーや中国の滴滴出行は、カーシェアアプリを使って車の所有を過去のものにしようとしている。ドイツは2030年までにエンジン車の販売を禁止するとし、オランダやノルウェーはドイツより更に5年早い2025年にはエンジン車を禁止するという。そして年間3000万台の世界最大の車需要が見込まれる中国はEUより早く車のEV化を進めようとしている。

 EV車が多くなればGSスタンドは消えて無くなり、そもそもカーディーラーも自動車保険も無くなっていくだろう。つまり車はEV化と自動運転で単なる移動手段となっていくだろう。


 次に電力だ。世界のエネルギーは電力で回っている。そしてその電力構成比に占める再生可能エネルギーの割合が近い将来70%になっていくと予想されている。

 京都議定書発効以来、自然エネルギーは急増し、風力発電は60倍以上に拡大し原発の設備容量を超えた。太陽光発電も原発の設備容量と同等となり、福島第一原発の事故により現在最も発電コストの高いものは間違いなく原発だ。アメリカを始めフランスと日本を除く全ての国はコスト面で原発からの撤退を表明した。

 今後電力は、風力、太陽光、地熱、小水力といった世界中どこにでもあるコンパクトな地産地消に変わっていくであろう。そして長大な送電網は必要なくなり結局電力インフラを支配する大手電力会社は必要なくなっていくだろう。


 そして問題は日本政府だ。原発再稼働に血眼になっていることは既に論外だが、世界中から非難を浴びていることは石炭火力発電所の輸出事業だ。

 インフラ輸出としてアベ政権が進める石炭火力発電所は、ベトナム、インドネシア、インドで巨大プロジェクトが進行中だ。日本政府が言うにはCO2排出量が少なく環境負担の小さい石炭火力らしいが、その効率はたかだかマイナス5%だ。そして世界中から、結局は化石燃料を燃やす限り温暖化は続くと非難されている。しかもその主幹企業は世界中に原発輸出を悪魔のように進めるゾンビ企業東芝だ。

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③そして消えゆくもの

 世界は気候変動、そしてパリ協定の圧倒的力の前にある。私たちはどこに行こうとしているのか?それは私たち国民と、国の指導者次第だ。

 中国は新たな時代のうねりを自らの力に変えようとしている。EUは環境技術で確実なイノベーションを行なっている。習近平やアンゲラ・メルケルやエマニュエル・マクロンはこの巨大なうねりが分かっているはずだ。

 ドナルド・トランプはどうだろう?

 パリ協定からの離脱を発表したトランプは、クリーンエネルギーより石炭を推進し、環境政策の主要ポストは全て地球温暖化否定派を指名し化学担当補佐官すらいない。EVへの7500ドルの課税控除を廃止し、風力発電に重要な税額控除を縮小した。そして疑わしいトリクルダウン経済学を信奉している。しかしアメリカにはホワイトハウス以外において健全な権力とメディアがある。トランプ政権は確かに米国を後退させるだろう、しかしGDP50%を超える人々と機関が"We are still in"と表明している。

 翻って日本だ。トランプと同じように怪しげなトリクルダウン経済学を剽窃し、国内では原発再稼働に血眼になり、海外では石炭火力と原発をインフラ輸出と称し推進している総理大臣がいる。しかもメディアは忖度一色だ。

 人口減少と高齢化、そして新たな巨大な変革のうねりの中に日本は飲み込まれていくことだろう。それが国民の選択であるのなら自業自得、身から出た錆だ。しかし私たちの国にも未来を見つめることができるリーダーがいるはずだ。そして培ってきた知恵と技術を地球温暖化を止めるために生かすことができるはずだ。

 アル・ゴアAl Goreがこう語っている。

「すでに破壊された環境は取り戻すことはできない。我々がどれだけ力を尽くしても海面上昇は続くであろう。しかし上昇する速度を遅らせることはできる。本当に壊滅的な環境破壊はまだ避けられる。それは時間との闘いだ」

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