「空は無限の排気口ではない」
日本政府がインドネシアなど途上国で進める石炭火力発電の輸出に対して、アル・ゴアAl Goreが語った言葉だ。
京都議定書の採択から20年、世界は全ての国と地域が参加するパリ協定を手にした。
1992年リオ・デ・ジャネイロで開催された地球サミットで採択され、1994年発効した気候変動枠組条約は、四半世紀を経てようやく全ての国と人々の法的な合意事項Agreement matterとなった。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の5度に渡るレポートは、地球温暖化の原因をCO2とすることに異議を唱える人々を遥か彼岸に追いやり、今や米保守派の牙城ティーパーティですらクリーンエネルギーを推進するまでになった。
1.パリ協定の歴史的意義
世界の平均気温は毎年上昇し続けている。大気中の二酸化炭素濃度は400ppmを超え過去80万年で最も高くなった。台風、洪水、干ばつ、高潮、海面上昇と、最早温暖化の影響を誰もが無視できなくなってきた。気温が上昇すれば、海水温が上がり水蒸気が雲を呼び台風や大雨をもたらす。他方気温の上昇は干ばつを招き陸域は砂漠化に向かう。
地球温暖化に対する国際的な枠組みは、1994年に気候変動枠組条約が発効したことから始まり、CO2濃度を20世紀内に1990年の水準に戻そうとした。しかし法的拘束力を持たない目標は、削減どころかCO2濃度は増加し続けることになった。
気候変動枠組条約での各国の対立点は、産業革命以降大量のCO2を放出し温暖化を招いてきた先進国と、これから発展し豊かになろうとする途上国との対立にあった。そして途上国を代弁する中心は中国だった。
そうした中で大きなターニングポイントとなったのが京都議定書だ。
1997年12月に採択された京都議定書は法的拘束力のあるものであったが、先進国だけにCO2の削減義務を課し、途上国には削減義務を課さなかった。そのため京都議定書の合意に尽力した米国副大統領アル・ゴアの民主党政権が交代し、ブッシュ共和党政権が発足すると米国は議定書からの離脱を表明した。その理由は、最大のCO2排出国となった中国に削減義務を課さないという不公平感にあった。結果的にカナダがアメリカに追随し、2013年以降日本とロシアが追従し温暖化に対する京都議定書の枠組みは崩壊することになった。
しかし頻発する自然災害を前に、世界は新たな国際的枠組みに向かって再び進み始めた。そして2016年に生まれたパリ協定は全ての国にCO2の法的削減義務を課すという歴史的なものだった。
2.理想だけでは動かない世界
果たしてパリ協定の成立の力になったものは何だろう?
一つには温暖化の被害が深刻になり無視できなくなったこと、二つ目にIPCCの5度に渡る科学的知見に意義を挟む科学的根拠が見当たらなくなったこと、そして三つ目に温暖化対策がコストではなく新たなプロフィットを生み出すことになったことだ。
20年前京都議定書が採択された後、アメリカは京都議定書からの離脱を表明した。それがデジャヴのようにパリ協定と重なる。しかし京都議定書とパリ協定の最も大きな違いが三番目のプロフィットだ。
トランプ政権のパリ協定離脱表明後全米に巻き起こった声、それが
"We are still in"だった。
米国内の州政府、都市、企業、大学の2500以上に上り、その声は米GDPの50%にも及んだ。
取り分け影響力の大きいカリフォルニア州、ニューヨーク州、MIT、コロンビア大、グーグル、アップル、マイクロソフト、そしてエクソンモービルまでがパリ協定を支持している。
全米の数多くの組織をパリ協定に留まらせる最大の動機が、脱炭素社会に乗り遅れないという危機感と、新たに生まれる環境市場への期待だ。
現在世界で新しく生み出される電力のほぼ4割は再生可能エネルギーであり、世界の環境市場は今後20年で2000兆円に達すると言われている。つまり環境はビジネスになったのだ。