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"人生フルーツ"が静かに共感を呼んでいる。
建築家津端修一さんと妻の英子さんのドキュメンタリーだ。
津端さんが団地のコンペに参加した名古屋近郊の高蔵寺ニュータウン。そこに300坪の土地を購入し、平屋の家を建て、野菜や果物を自らの手で育て、自給自足の暮らしをつづけた。
東海テレビが二年間に渡り二人の暮らしを見つめたドキュメンタリーは、昨年3月に放送され、第42回放送文化基金優秀賞を受賞し、今年になって劇場版として公開された。
"人生フルーツ"は日本の成長を支えてきた第一線の建築家の、穏やかで、淡々と、ひっそりと、夫婦二人でシンプルに生きる暮らしが共感を呼んでいるのだろう。

"人生フルーツ"を見ていて、ヘルマン・ヘッセがずっと浮かんでいた。ヘッセはノーベル文学賞を受賞したドイツ文学の巨匠だ。
「車輪の下」「デミアン」そして多くの詩を残している。またヘッセは植物や昆虫を美しい水彩で描き、庭仕事をすることで戦争とナチズム下での精神的危機を乗り越えようとした。そんなヘッセの「庭仕事の愉しみ」が"人生フルーツ"と重なったのかも知れない。
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ヘルマン・ヘッセは「人は成熟するにつれて若くなる」の中でこう語っている。
『人は高齢になると、過ぎ去った長い生涯を独特の考察の仕方で回顧するものである。
私の人生の後半は、劇的で、闘争に満ち、敵が多く、苦難に満ち、最後はあまりにも多くの成功に満ちていた。
けれども、この落ち着かない人生を切り抜けるための力は、もっと静かだった最初の半生、つまり私が体験することを許されたほとんど四十年になんなんとする平和から生まれたのである。
戦争はひとつの試練だと言った人がいるけれど、私の経験からすると、人を進歩させ、力を与えるのは平和のみである。』

静かで、ひっそりと、多くを望まない、満ち足りた暮らし、"人生フルーツ"はそんなドキュメンタリーだった。
因みに、津端さんの暮らした高蔵寺ニュータウンは、私の会社から車でほんの10分ほどのところにある。そして私の会社の名前は"フルーツライフ"…どこか不思議に縁を感じるのだが、私にはそうした生き方は無理かなぁと思った。
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