2016年、戦争が間近に迫っている。
 私たちは、本当に平和憲法を捨て戦争への道を進むのか。
 WTOドーハラウンドは何の成果もなく閉幕し、戦後世界の枠組みを作ってきたブレトンウッズ体制は瓦解し、グローバリズムは逆説的にブロック化によって遡求的に解体されようとしている。
 今世界は、急激に対立に向かっている。2016年私たちはどこに向かうべきなのか。

⭐️Occupy Wall Street

 2011年9年17日、ウォール街を「ウォールストリートを占拠せよ!」と叫ぶグループ"Occupy Wall Street"がズコッティ公園に集まっていた。
 OWS(Occupy Wall Street)の掲げたスローガンは"We are 99%"。リーマンショックの不況下、格差拡大と失業問題の解決、金融機関のGreedたちに対する抗議がウォール街を占拠するOccupy(占拠)実力行動となった。
 OWSの運動は、TwitterやSNSを通じて活動を広げ、非暴力に徹した平和的抗議活動は、夫々の参加者が個人の意思で、娯楽性をも伴った運動として、2011年9月17日から一年間、最大で1万人の人々がOccupy占拠をつづけた。
 カナダのカレ・ラースンの呼びかけたOWSの運動の参加者は、若者が中心で、様々な政治的主張を持った組織されない人々だった。ジャーナリストのナオミ・クラインを始め、投資家のジョージ・ソロスやノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンなど著名人も多くOWSに支持を表明した。

⭐️太陽花学生運動

 2014年3月18日、台湾の学生が立法院の議場を占拠した。ことの発端は、国民党馬政権が中国との「海峡両岸サービス貿易協定」批准を強行裁決したことによる。
 占拠後馬政権との交渉が不調となると3月30日反対派市民を加え総統府前で50万人の大規模デモを行った。



 この太陽花(ひまわり)学生運動を指導したのは、国立台湾大学院生の林飛帆(リンヒハン)だった。
 そして2015年1月に、太陽花は法律学者黄国昌を党首とする「時代力量」を結成し、直近の世論調査では与党国民党を大きく上回る支持を集めている。

⭐️雨傘革命

 2014年9月26日、香港行政長官普通選挙を巡って中国の干渉に対する抗議活動として、香港学生連盟の学生たちがOccupy Central香港の商業エリアを占拠した。
 同年10月10日1万5000人を超える人々が学生を支援し、Occupy Centralは12月までつづくことになった。しかし香港経済の中心国際金融センターや商業エリアの長期占拠は、香港経済に影響を及ぼし始め、12月15日に全ての占拠拠点が強制排除され雨傘革命は終結を迎えた。

⭐️SYRIZA
 現在のギリシア政権SYRIZAは、左派グループの大連合だ。最大勢力は「左翼運動・エコロジー連合」、SYRIZAの中には、極左の毛沢東主義者やトロツキスト、環境問題を重視する「緑の左翼GreenLeft」、ユーロコミュニズム、欧州懐疑主義…。
 雑多ともいえる政治組織を結集させたものは、様々な政治問題を共有した"Agora"(広場)の存在だった。Agoraは新自由主義とグローバリズムに対抗する政党や組織を結びつけ地方選挙で勝利を重ね、2004年に各組織を発展的に解消しSYRIZA-急進左派連合を結成した。
 そして2009年SYRIZA党首となったアレクシス・ツィプラスが、2015年1月25日の議会選挙で第一党に導き、政権を奪取しギリシア首相となった。

 ツィプラスは、十代でギリシア共産党青年団に入党し「極左高校生活動家」のリーダーとして17歳で颯爽と政治の世界に登場した。2006年にはアテネ市長選に立候補し、首相に就任したのは若干40歳だった。
 ツィプラスはEU・IMFが突きつけた緊縮財政政策と対決するために、意表を突く国民投票、さらに2015年8月には首相を辞任し、9月20日に総選挙に打って出て勝利し、SYRIZAは再び第一党となった。

⭐️PODEMOS.

 2011年5月15日、マドリードのプエタデルソル広場のデモは数十万の人々で溢れかえっていた。このスペインの運動がNYのOccupy運動の先駆けとなった。
 2014年1月16日、反EUを結集軸としてPODEMOSが生まれた。左派知識人や学生、労働組合を中心にPODEMOSが結成され、リーダーにはコンプルテンセ大学の政治学教授だったパブロ・イグレシアスが就任した。イグレシアスは、EUから自己決定権を取り戻し、NATOからの撤退と、憲法上の国民の権利擁護を打ち出し、スペインをドイツの植民地とはしないと訴えて、2014年5月の欧州議会選挙で第四党に躍進した。

 PODEMOSは四つの政治プログラムを提示している。
 ①経済の治癒/ベーシックインカム導入による貧困追放
 ②自由平等友愛
 ③主権の再定義/リスボン条約の見直し、自由貿易協定からの撤退、国民投票の推進
④国土の再生/化石燃料削減、再エネ促進

⭐️SEALDs
 そして日本だ。
 2015年8月30日、国会前は10万人を超える人々が抗議の声を上げていた。
 アベ政権が強行する戦争法案に反対し「憲法違反、立憲主義に反する、9条擁護」という声がうねりのようにこだましていた。
 国会前の抗議行動は原発事故以降続けられており、世界的なOccupy運動の流れの中の一つのように思う。そして戦争法案に反対する声は、SEILDsの若者が中心となることで全国に拡大した。

 今多くの日本人は変化を望んでいるのではないだろうか?
 急激に進む高齢化、一千兆円を超えた国の借金、目減りする所得、広がる格差…。こうした将来への不安の中で、アベ政権は何かしら世の中を変えてくれるのではないかという漠然とした思い、強いリーダーシップと変化への期待感が支持率の高さに結びついているように思う。
 思い出してほしい、野田佳彦が総理大臣をしていた時、菅直人が総理大臣をしていた時を。リーダーシップもなく、見栄えも悪く、霞が関の官僚の言うままに、何も決まらず、リーマンショックからつづく不況と原発事故への不安、そうした閉塞感からアベ政権が生み出されたことを。
 確かにアベ政権は次々と新たな政策を実行し、結果的に株価は野田政権時の2倍に上がり、失業率は1ポイント以上改善され、大企業の収益は増加した。さらに自信を喪失していた日本人に、ナショナリズムを煽り、日本人は素晴らしいと喧伝し、あらゆる面で日本を凌駕した中国に、敵意を剥き出しにして対峙する姿に、日本人は喝采をおくり自信を取り戻そうとしたことを。例えそれがゲッペルスばりのプロパガンダだったとしても。

 暫く前、近くの公民館で「9条の会」の催しがあった。これまでこうした護憲めいた集会に出席したことは一度もなかった。
 会場に入ると、そこは老人ばかり『あぁやっぱりこうなんだ…』
 つまりアベ政権に反対する闘いは、戦争法反対であれ、護憲であれ、多くの日本人にとって「保守」であり、むしろアベ政権が「革新」なのだ。
 年が明けて、夏には衆参ダブル選挙が待っている。自公維が圧勝すれば待っているのは憲法改正、そして戦争への道だ。

 アベ政権に対決するためには、私たち自身がもっと鮮明に革新の旗、それ以上に革命の旗を掲げるべきだ。そしてその旗を持って先頭に立つ者は、パブロ・イグレシアスや林飛帆やアレクシス・ツィプラスのような知的で颯爽とした青年だ。
 人には基本的人権があり、生まれながらにして平等だ。しかし政治運動にはリーダーは必要だ。そのリーダーの不在が、OWSを敗北に導き、雨傘革命は敗北した。一方で太陽花学生運動は時代力量という政党を創り出し、SYRIZAはEU-ドイツと敢然と対決し、PODEMOSは政権獲得を現実のものにしている。
 確かにポピュリズムは、FN(国民戦線)を生み、欧州懐疑主義はDF(デンマーク国民党)や、オルバン・ビクトルのFIDESZ(ハンガリー市民同盟)という極右を生み出した。しかしこのことはすべてグローバリズムが遡求的に解体されようとしているためだ。今やグローバリズムは過去のものとなりつつある。そしてそれに代わるものが極右による排外主義と人権抑圧になるのか、自由で平等な急進左派のものとなるのか、今世界は岐路に立っている。
 そして日本で、その萌芽が果たしてSEALDsにあるのか「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」にあるのか未だ分からない。しかしその主張をさらに左に進める政治プログラムを提示し、広範な左派救国戦線を創り出すことがアベ政権に対決しうる唯一の道だ。

 トマ・ピケティが「21世紀の資本」の中でこう語っている。
「富の集中が進んだ社会では、人々の不満を強権で抑えつけるか、革命が起きるしかない」
 そして私たちの望むものは、ファシズムではなく革命だ。