景気が回復し雇用情勢も改善されているような情報が巷にあふれている。春闘ではベアも獲得し、この夏のボーナスは軒並みバブル期に匹敵するような勢いだ。確かに私の工場も人手不足は深刻だ。それに伴って時給も上げざるをえなくなっている。果たして本当に景気は回復し私たちの所得も実際に上がっているのだろうか?



 4月の有効求人倍率は全国軒並み上昇し、私の工場のある愛知県では1.56Pとなった。しかし求人の殆どが派遣、パート等の非正規雇用だ。因に2014年1月時点における非正規労働者の割合は全体の36.6%、労働人口のほぼ4割が非正規雇用、その数およそ2000万人。

 さらに年収200万円未満のいわゆるワーキングプアといわれる人々は、総務省の労働力調査によると2174万人、労働力総数が6384万人であることから、実に3分の1が年収200万円未満の貧困層ということになる。

 ここでもう一つ統計上の数字を上げると、OECD加盟国の雇用者報酬は1997年を起点にして、イギリスが168.9P、アメリカが158P、ドイツが138.6Pと、軒並み1.5倍前後の伸び率となっている。そして肝心の日本はというと88.9P、先進国中唯一ダウンしているのが日本だ。



 得意でもない数字を上げて何を言いたいのかというと、つまり私たちはますます貧困に向かっているということだ。但し1%の富裕層を除いて。

 アベノミクスは一時的に株価を上げることしかしていない。株等金融商品を保有する富裕層はこの一年で何もすることなく資産がほぼ倍増した。知り合いのミニセレブの女性も株価にして2000万円程保有していた株がこの一年で4000万円になったという。そして彼女曰く「下がる前に上がった分をお金にしておく」と2000万円を現金にした。ミニセレブの女性と世界の金融を同じに語るつもりはないが、日本株投機の外国人投資家も何れ機を見て売り抜けるはずだ。



 トリクルダウンという経済政策がある。これはアベのお友達のパソナ会長竹中平蔵の得意理論だ。簡単に言えば「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富みが浸透してくる」という理論だ。これは新自由主義で知られたレーガンノミクスの経済理論で、それを今更実行しているのがアベ政権だ。

 そしてレーガン後のアメリカでの経済学的総括はどうだったのかといえば、財政赤字が爆発的に増大し実質所得の上昇は微増にとどまったとの結論だった。それはレーガン政権の経済顧問を務めたポール・ボルガー自身もトリクルダウンはレトリックだったと語っていることに象徴される。



 そして話を政治に向けてみると、週明けにも「集団的自衛権」が閣議決定されようとしている。当初アベは「憲法を国民の手に取り戻す」と宣言し憲法96条の改正を目指していたはずだ。ところが国民の支持が得られないと分かるや今度は憲法をないがしろにし始めた。つまり憲法改正手続きを経ることなく、お友達を集めた「安保法制懇」の報告書をもとに憲法解釈を変更しようとしている。その法的根拠も初めは「砂川判決」だったはずが、法的に支離滅裂と批判されるや、1972年の「政府見解」をその根拠とし始めた。

 自分の頭で少しでも考える力があれば、アベ政権の行おうとしていることが如何に変容し一貫性に欠け、ただ日本を戦争可能な国家にするという一点に向け闇雲に突き進んでいることが分かるはずだ。

 このアベの姿はイラク戦争時のブッシュを彷彿とさせる。イラク開戦にあたって軍人出身のパウエルは常に抑制的だったのに対して、子ブッシュは父ブッシュのやり残したフセイン打倒に血道を上げ、大量破壊兵器の証拠がないと反対した仏独をオールドヨーロッパと両断した。

 そしてアベシンゾーは日本国憲法をまさに仇敵のごとく忌み嫌い、憲法の最高原則たる平和主義を葬り去ろうとしている。確かにこれは祖父岸信介の悲願を達成することであり、防衛官僚OB等専門家の否定的見解に耳をかさないところも子ブッシュの相似形に見えてくる。



 果たしてアベにこれほどの力を与えているものは何だろう?

 それは景気回復に踊らされている国民の支持だ。いや所得の客観的データをみれば、日本国民は景気回復のイメージだけに踊らされている。実質所得は目減りし将来の暮らしは真っ暗のはずだ。

 果たして私たちの暮らしは豊かになったのか?私たちの老後は安心して過ごすことができるのか?

 そして私たちは、本当に戦争への道を歩むのか?