✨ 心のあり方が、からだの未来を変える?
毎日を前向きにとらえて生活することは、気分が軽くなるだけでなく、身体の調子にも何かしらの影響がありそうだと感じる場面があります。
今回紹介するのは、そうした「心のあり方」と「長生き」の関係を、長年にわたるデータで丁寧に追いかけた研究です。
研究では、人が日常の出来事をどんな風に受け止めているか、その傾向と長寿との関わりが調べられました。数万人を長期的に追いかけた記録から、「こころ」と「からだ」の「意外な接点」でした。
中医学では、心の状態が体のめぐりや臓器の働きに影響すると考えます。気持ちが不安定な状態が続くと、「気」が不足したり、生命エネルギーを蓄える「腎」が衰えやすくなります。
今回の研究で示された傾向には、こうした中医学の考え方と重なる部分があり、心の状態を整えることの大切さに共通点が見られます。
どんな人たちを対象にして、どんな風に調べられたのかを、ひとつずつ紐解きながら進めていきたいと思います。
では、続きを見ていきましょう。
🧪 どんな人たちを追いかけたの?
この研究では、2つの大規模な集団が長期間にわたって観察されています。
ひとつは、医療分野で働く女性たちを対象にした「Nurses’ Health Study(NHS)」で、今回の解析には 約7万人の女性が含まれています。年齢は60歳前後が中心で、人生の後半に位置する層が幅広く参加している点が特徴です。
もうひとつは、男性の加齢を長年追いかけてきた「Normative Aging Study(NAS)」で、こちらは 1,400人ほどの男性が解析対象になりました。40代から高齢期まで幅広い年齢層が含まれており、加齢の過程を長く追える集団です。
追跡期間にも違いがあります。女性のグループは 10年間(2004–2014)、男性では 30年間(1986–2016) と、非常に長い年月をかけて記録が集められています。
こうした時間の積み重ねが、「ものごとの捉え方」が日々の生活や健康とどのように重なっていくのかを確かめる手がかりになっています。
2つの集団は性別や年齢が異なりますが、どちらも規模が大きく、長期間のデータが揃っており、研究の信頼性を高めています。
🔍 「楽観主義」ってどう測ったの?
研究では、参加者がどのくらい前向きに物事を捉える傾向があるのかを、質問票を使って調べています。
女性のグループ(NHS)では「LOT-R」という質問票が用いられ、その人が日常の出来事をどのように受け取りやすいのか傾向を知ることができます。
男性のグループ(NAS)では、「MMPI-2」という心理検査をもとにした尺度が用いられ、気持ちや行動のパターンを捉えられる仕組みになっています。
どちらの方法でも、「楽観主義」は性格そのものを断定するのではなく、あくまで「日々の出来事をどう感じやすいか」という傾向を測るものです。研究の目的に合わせ、女性と男性それぞれに適した尺度が使われています。
📊 どんな結果?
分析の結果、女性でも男性でも、より楽観的に物事を受け止める傾向がある人ほど、寿命が長い傾向があることが確認されました。
女性のグループでは、もっとも楽観的な人たちは、もっとも悲観的な人たちに比べて 寿命が約15%長いという結果が示されています。
男性でも同じ方向の結果がみられ、もっとも楽観的な人たちでは寿命が約11%長いという差が報告されています。
生活習慣や基礎疾患といった要因を考慮した上でも、この傾向は変わりませんでした。つまり、喫煙や運動量、食事の違いを差し引いたあとでも、楽観的な受け止め方と寿命の長さのあいだには関連がある、という結果になっています。
この結果は、心の状態が長い年月のなかで健康とどのように関わるのかを考えるための手がかりになります。
🧠 「こころ」と「からだ」のつながり
楽観的な受け止め方と寿命がどのように関わるのかは、今回の研究だけでは明らかにできません。それでも、これまでの医学的な知見を合わせて考えると、その背景にいくつかの可能性が見えてきます。
まず、物事を前向きにとらえやすい人は、ストレスを感じたときの心身の負担が強くなりにくい傾向があるとされています。
強いストレスが続くと、血圧や睡眠、免疫などに影響が出やすくなるため、負担が抑えられることは、長い期間を通して体の状態を整える方向に働く可能性があります。
さらに、生活習慣との関連も考えられます。
前向きに行動しやすい人ほど、運動を続けたり、規則的な生活を保ったりといった行動を選びやすいと報告されています。こうした行動は、生活習慣病のリスクを下げるうえで重要で、日々の積み重ねが将来の健康に結びつきやすくなります。
これらのことから「ものごとの受け止め方」が日常の行動やストレスの扱い方に影響し、その違いが長い年月の中で体に良い影響を与え、長寿に結びつくことは十分に考えられます。
🌿 中医学から見た「楽観」と「年齢」
中医学では、心の状態が体のめぐりや老化の進み方に関わると考えられています。とくに「気(き)」と「腎(じん)」が重要で、気は体と心を動かす力、腎は成長や老化を支える要とされています。
前向きに物事を受け止めやすい状態は、気が滞りにくく、呼吸や血の巡りが乱れにくいとされます。こうした状態は、こわばりや疲れをため込みにくく、日々の体調を保ちやすいと理解されています。
また、加齢とともに気と腎はゆるやかに弱っていくとされますが、心が安定しているとその負担が軽くなると考えられています。無理に前向きになることではなく、気持ちの揺れが大きくなりすぎない状態を指します。
研究で扱われた「楽観的な受け止め方」は、この中医学的な「心の調整が保たれた状態」と重なる部分があります。心が安定しやすい状態が続くことが、年齢の重ね方に影響する可能性があるという点で、両者には共通した視点が見られます。
📝 心の状態がつくる未来へのヒント
今回の研究は、「ものごとの受け止め方」と「長い年月の過ごし方」に関連がある可能性を示しました。
日頃の考え方や気持ちの整え方は、自分で少しずつ調整できる部分でもあります。ストレスとの向き合い方や行動の選び方が変わることで、体調が安定しやすくなる可能性があります。
こうした変化は大きなものでなくても十分で、小さな工夫の積み重ねが生活を整える力になります。
中医学でも、気持ちが落ち着きやすい状態は気の巡りが乱れにくく、体を支えるうえで大切だと考えられています。
今回の研究で示された傾向は、日々の選択や気持ちの動きが、これからの自分の過ごし方にゆるやかに影響しうることを示しています。
心の状態を少し整えるだけでも、未来に向けて前向きな一歩になる可能性があります。
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