衝撃的な体験から数日が経過した頃、僕は大学の入学式を迎えていた。

部活片手間に勉強も頑張っていた高校時代前半、サムソンという人生の道標に出会ってからの後半、当然学力は著しく低下し志望校を大幅に落としての入学ではあるが、それでも何とか大学生になることができた。


しかし、心が晴れない。


もう一度ボル爺に会いたい。

あの日以来、ボル爺のことが頭から離れない。


何処にお住まいなのだろうか。

ご家族はいらっしゃるのだろうか。

お孫さんはいるのか。お孫さんと仲良くしてたら何だか嫌だ。何これ!?妬きもち?

街ですれ違うおじさんが皆ボル爺に見える。グレーハットを被った全ての人がボル爺に見えてしまう。

会ってもう一度話がしたい。悪戯もされたい。僕が今まで誰にも言えなかった秘密や悩みを今度は話してみたい。


あの時、いったい何故逃げるように帰ってしまったのだろうか。帰らなければ次回会う約束や連絡先を教えてくれたのだろうか。


私はあべちかへと向かった。

あの公園と地下トイレを何度も往復する。

噴水前で何時間も待つ。ハットを被ったおじさんを見つけては急足で先回りをし顔を覗き込む。

あの喫茶店にも向かった。しかし不思議なことに何度足を運んでも珈琲と書かれた看板が点灯していることはなかった。


今回は会えなかったけど、ボル爺も僕に会う為にここに来てるんじゃないか。

会いたい。

出会った日と同じ曜日、同じ時間帯、都合をつけては毎週のようにあべちかで待った。


「お兄ちゃん、さっきからずっとそこに居るけど待ち合わせかなんか?よかったら遊ばへん?」

タイプとは程遠いアルコール臭がプンプンするおじさんから声がかかったが丁重にお断りもした。



その後も幾度となく通ったが二度とボル爺と再会することはなかった。