阿倍野地下街、通称あべちか。
その日も朝からゲームコーナーに居座り紳士ダンディーおじさんにレイプされることを夢みていた。したくもないコインゲームで暇を潰していたのだが、明らかな若ゲイが数名いるのが察しにとれる。
だって目がとっても怖いんだもん。
あの何とも言えない、人を追うジト〜とねっとりとした眼。
気づけば二つ隣席に吉田栄作風センターパートお兄さんが陣取っていた。
だんだんと忍び寄る英作。
野生ライオンに狙われた野うさぎの如く僕はそそくさとアポロビルを後にする。
何やねん!あいつ!
行くところもなく、天王寺の街を一人彷徨う。
お腹空いたよ。
財布の中身は2,000円ばかし。仕方ない、いつもの南海そばで昆布そばでも食べよう。
ここの立ち食い蕎麦屋は駅前の立地上、いつも上物年配サラリーマンがひっきりなしに入ってくる。
ホント絶景の眺めなんだよ!沢山のタイプおじさんが美味しそうに蕎麦を食するその光景は、白浜の三段壁よりも天橋立のまた覗きよりも、僕にとっては最高の絶景なのだ。いつかこの店でアルバイトをしようと決心し店を後にした。
と、同時に恰幅のいいロマンスグレーのおじさんが「ご馳走さん」と店から出てきた。
そして僕の前を横切った時、とても懐かしい香りがしたんだ。あっN先生と一緒だ。
思わずつけてしまった。
尾行やん!アカンやん!わかっていても身体が勝手に動く。
階段を何度か下り、ラッキーなことにそのおじさんは公衆トイレへと向かった。
勿論つける。
ん??
アレ?
このトイレ…
なんか…
変…
だってね、5.6基ある小便器は満員御礼。しかも入った瞬間、全員が一瞬こちらを振り返る。
あっ!サムソン小説で読んだ上野駅の構内トイレと同じ光景やん!
絶対発展場やん!
そして何よりびっくりなのがタイプではないが全員おじさん。あんなにアポロビルで待ち伏せしてた努力はいったい何?
N先生もどきのおじさんは空いた小便器で何事もないかのように用を足している。
逆に何でわからんの!!!
僕はN先生の隣を狙っていたのだが、一番早く便器を離れたのはN先生。みなさん、超重度な前立腺肥大なんですか!?
仕方ないからN先生の残り香で我慢しつつ、チャックを下げた。
ふと目に飛び込んできた。
えっ!隣のおじさんのチンチン勃ってるやん!
右隣のおじいちゃんなんてシコシコまでしちゃってるよ。
急に怖くなった。
元々尿意すらなかったのだがオシッコもせず慌ててトイレを飛び出した。
トイレから出た世界は人々が普通に行き交い、噴水がピューっと飛び、子供達の泣き声やら笑い声が聞こえる当たり前の地下街。
まるでタイムスリップでもしてきたかのように世界が違う。
しかし、よく観察してみると特に何をするわけでもなく待ち合わせをしているかのように突っ立ってる人が4.5人いる。そして頻繁にトイレへ出入りしまた定位置へと戻る。
あの眼だ。
おじさん〜おじいちゃんだけど、タイプじゃないんだな〜これが。
仕方ない、初陣は未遂で終わろう。