「白の狼様、双頭の鷲様がいらっしゃいました」
「分かったわ。応接室にお通ししておいて」
「はい。承知いたしました」
白の狼は執務室で仕事中だったが手を止め、応接室に向かう。
今日は双頭の鷲が婚約者を連れて来る日だった。
白の狼が応接室に入ると既に双頭の鷲のアランと婚約者のひかりはソファに座っていた。
アランとひかりは立ち上がり白の狼に挨拶する。
「シロ、久しぶりだね。こちらが婚約者のひかりだ」
「両羽ひかりです。よろしくお願いします」
ひかりはにこやかに挨拶する。
白の狼も笑顔で挨拶する。
「お待ちしていました。双頭の鷲様、ひかり様」
(わあ、白の狼さんてすごく綺麗な人だわ)
ひかりはにこやかに自分たちに挨拶する白の狼を見てその美しさに目を奪われた。
声は少しハスキーだがそのハスキーな声が白の狼をさらに魅力的にさせている。
「どうぞお座りになってください」
アランとひかりはソファに座る。
「私の顔に何かついているかしら?」
白の狼の言葉にひかりはハッと我に返る。
「いえ、すみません。白の狼さんがあまりに美しい方なので驚いてしまって」
するとアランが笑いだす。
「えっ、私変なこと言った?」
ひかりは突然笑い出したアランに問いかける。
「ひかり。これは誰にも言ってはいけないここだけの話だけど彼女は男性だよ」
「は?」
ひかりはアランの言うことが理解できなかった。
「そうです。双頭の鷲様の言う通り私は男ですよ」
「うそー!!」
ひかりの驚きようにアランも白の狼も苦笑する。
(こんな綺麗な人が男性!?)
「白の狼は仕事上、女性として生きてるんだ」
「そうなんですか」
「ええ、ひかり様。いろいろとこちらにも都合がありましてね。私はドレイクヴァロに入ってからずっと女性として生きています」
「これはトップシークレットだから他の人に言ってはいけないよ。知っているのは俺と総帥と各地域リーダーだけだから」
「分かりました。アラン」
「フフッ、でもひかり様に褒められるのも悪くはないわね」
白の狼はコーヒーを一口飲みながら答える。
その所作も美しい。
(私、女として負けてるかも)
ひかりはそんなことを思った。
「それで最近あちらさんの動きはどうだい?」
アランの問いに白の狼は難しい顔になる。
「やはりいろいろと画策しているようですわ。双頭の鷲様も身辺にお気を付けてくださいね」
アランが聞いたのはキマイラの動きのことだ。
「そうか。いずれは決着をつけないといけない相手だからな」
ひかりは仕事の話には口を出さない。
「ええ、それは総帥も同じ考えかと」
白の狼はアランの言葉に同意する。
「ひかり様は日本人でしたよね?」
「はい。そうです」
「私は日本に興味がありますの。趣味は日本の古武道ですわ」
「わあ、そうなんですか」
「ひかり様も武術を習っているそうですね」
「はい。私のメインは不動流です」
「名前は聞いたことありますわ。どんな武術ですの?」
「え~と……」
それからひかりと白の狼は武術の話で盛り上がった。
「そろそろ行くか、ひかり」
アランにそう言われるまでひかりは夢中で武術の話をしていた。
「すみません。武術の話ばかりしてしまって……」
「いいえ、とても楽しかったわ。また、今度いらっしゃってください」
「はい。ありがとうございます」
ひかりは白の狼に一礼する。
白の狼はアランとひかりの車が見えなくなるまで見送っていた。
「なるほどね。黒の鷹が言っていたことが分かる気がするわ」
先ほど武術のことを語るひかりはとても笑顔が素敵で純粋ささえ感じるようだった。
そしてその様子を穏やかな顔で見つめているアランの雰囲気の柔らかさは白の狼が初めて見る双頭の鷲の姿だった。
闇社会に生きていながら闇に飲み込まれることのない存在。
ひかりの印象を白の狼はそう感じた。
「ドレイクヴァロに新しい「光」が射すのも近いわね」
白の狼はそう言って屋敷に戻った。
アランとひかりは白の狼と別れ最後の訪問場所である黒の鷹の本拠地上海を目指して旅立った。