銀の豹はリビングで双頭の鷲と婚約者を待っていた。
婚約者の『両羽ひかり』についてはクラウド総帥から基本的な情報をもらっている。
日本人でありながら闇社会にも関係のあった少女。
銀の豹はアランの心を射止めた少女に興味があった。
クラウドの最初の妻の若菜も日本人だった。
だが若菜は一般人だったからクラウドが若菜と結婚するのに苦労していたのは知っている。
けれど若菜という人間は総帥夫人として頑張っていた方だと思う。
今の二番目の妻エリザと比べたら雲泥の差だ。
銀の豹はクラウドの足を引っ張ってるエリザのことが嫌いである。
唯一エリザの功績を認めるならばエドワードという息子を産んだことくらいだ。
エドワードは幼い頃は体が弱く一族の一部から出来損ないと言われてた時期があったが銀の豹はそんなことは思っていなかった。
エドワードはアランと同じくクラウドの実子だ。
その子供が出来損ないなわけがない。
そしてエドワードは最近みるみるうちに頭角を現し始めている。
アランに至ってはクラウドの後継者として申し分ない。
銀の豹はクラウドの二人の息子の成長が楽しみだった。
例え自分とクラウドの子供でなくても。
「銀の豹様。双頭の鷲様と婚約者様がお着きになられました」
「お通してちょうだい」
部下の報告に銀の豹は短く答える。
しばらくすると双頭の鷲のアランと婚約者のひかりがリビングに入って来た。
「お久しぶりです。ギンの叔母様。婚約者のひかりを連れてきました」
「初めまして。両羽ひかりです」
ひかりは銀の豹に挨拶をする。
「ようこそ、シンガポールへ。遠かったでしょう? まあお座りになって」
アランとひかりはソファに座る。
ひかりは目の前に座った銀の豹の美しさに思わず見惚れる。
アランから年齢は四十代半ばと聞いていたが三十代と言われても全然通用するぐらいの若さに溢れている。
「どうかなさって?」
銀の豹の言葉にひかりは我に返る。
「いえ、銀の豹さんは美しい方だと思って」
「あら、ありがとう。ひかりさん」
銀の豹は笑みを浮かべる。
「ギンの叔母様は父の異母妹にあたる正真正銘の俺の叔母なんだ」
「え! そうなの?」
ひかりは先ほどから銀の豹から感じていた雰囲気がどことなくクラウド総帥に似ていると思っていたのでクラウド総帥の異母妹と聞き納得した。
「私は地域リーダーでは唯一ブラックウェル一族の出身なのよ」
銀の豹は青色の瞳でひかりを見つめる。
「ギンの叔母様が支配している地域はドレイクヴァロにとっても重要な地域でね。だから代々ブラックウェル一族の出身者がリーダーをやってるんだ」
「そうなのね」
「ひかりさんはドレイクヴァロでは「麻薬」の取引がご法度なのはご存知?」
「はい。初代ドレイクヴァロの総帥の遺言で「麻薬」は取り扱わないと決められていると聞きました」
ひかりが答えると銀の豹はチラリとアランの方を見る。
アランは仕方ないと言った感じで頷く。
「私は唯一ドレイクヴァロの中で「麻薬」を取り扱っているの」
「え!」
「でも誤解しないでね。ひかりさん。私は「麻薬」を買うけれど全て焼却処分するのよ」
「焼却処分ですか」
「東南アジア諸国は大麻草を栽培する国や組織が多いの。そこから大麻草を買って焼却処分して世界の「麻薬」を少しでも減らすことが私の使命」
ひかりは銀の豹の説明に驚いた。
ドレイクヴァロは「麻薬」をただ取り扱わないだけでなく世界に蔓延する「麻薬」を減らす仕事もしているのだ。