銀の豹はシンガポールの自宅のお風呂でくつろいでいた。
 今日のようにドレイクヴァロの契約を裏切る組織の始末も銀の豹の仕事である。

 銀の豹は独身だ。
 異母兄であるクラウドからこの地域リーダーを任されて彼女は大きく変わった。

 ドレイクヴァロの唯一の「麻薬」の取引を任せられている彼女は強く在らねばならなかった。
 ブラックウェル一族の中では彼女は『鉄の女』とも呼ばれる。

 だが彼女にはそんなことはどうでもよかった。
 異母兄のクラウドから「この地域リーダーを任せられるのはお前しかいない」と託された時彼女は喜びで溢れた。

 彼女は幼い頃から異母兄のクラウドのことが好きだった。
 その好きは兄妹の好きではなく男女としての感情だと気付いたのは何歳の時だったか。

 もちろん異母兄のクラウドと結ばれることは永遠にない。
  一時はその想いに絶望したこともあったが気を取り直してクラウドの役に立つ人間になろうと勉強を頑張った。

 クラウドが結婚した時も銀の豹は笑顔で祝福した。
 自分はクラウドの妻にはなれないがクラウドの信頼を得て必要とされる人間になるのだ。

 クラウドが自分を必要とする限り自分はどんなことでもできる。
 クラウドのためなら死ぬことさえ喜んで受け入れるだろう。

 もしかしたらクラウドは自分の気持ちに気づいていたかもしれない。
 だからアメリカから遠いこの地域のリーダーに指名したのかもしれない。
 でも彼女はそれで満足だった。

 彼女もクラウドへの感情は別にしてもこの地域のリーダーは他の地域リーダーよりもっとも信頼できる人間に任せることがいいと彼女も思っているからだ。
 この地域には「麻薬」の他にドレイクヴァロの心臓とも言うべきモノが隠された場所がある。

 それこそがブラックウェル一族の者がこの地域の地域リーダーになる最大の理由であり最大の秘密事項でもあった。
 その地域リーダーになれと言われたことはクラウドが彼女を信頼している証なのだ。

 それは普通に夫婦としての絆より強いかもしれない。
 この秘密はクラウドの妻の若菜さえ知ることはなかっただろう。
 ドレイクヴァロの総帥の関係者の数人しか知らない秘密だ。

 それに二週間に一度開かれるドレイクヴァロの幹部報告会で画面越しとはいえクラウドの顔を見れるのも彼女の楽しみだ。
 クラウドはブラックウェル一族の者でさえ滅多に会えない人物なのだから。

「フフッ、貴方は本当に悪い男だわ。クラウド」

  泡風呂の泡を手にすくいフッと息を吹きかけて泡を飛ばす。
 彼女は二十歳の時にアメリカからこのシンガポールに来て先代の銀の豹から地域リーダーとしての勉強を受けた。

 クラウドが見込んだ通りに彼女は次代の銀の豹の実力を手に入れた。
 先代から銀の豹を受け継いだ時に喜びに包まれた。

 これでクラウドの役に立てる。
 それからは銀の豹として先代よりもドレイクヴァロに貢献していると自負している。

 彼女は泡風呂から出ると体を休めるべく寝室に向かった。
 明日は双頭の鷲が婚約者と一緒にやってくる。

「アラン坊やに会うのも久しぶりね」

 ベッドに入りながら彼女はアランの顔を思い出す。
 アランは顔立ちがクラウドに似ているだけでなく雰囲気もクラウドに似ているので彼女はアランのことがお気に入りだった。

「今日は良い夢が見れそうだわ」

 彼女は灯りを消した。