「双頭の鷲様と婚約者様がお着きになられました」
「お通ししなさい」
金の獅子が言うと部屋の入り口が開き双頭の鷲のアランとひかりが入ってくる。
「キンさん。相変わらず元気そうだね」
アランと握手をしながら金の獅子は笑う。
「いやいや、もう最近は腰が痛くて長くは座っていられないんじゃ。そちらが婚約者殿かの?」
「はい。初めまして、金の獅子さん。両羽ひかりです」
「これは可愛いお嬢さんだね」
ひかりは金の獅子と握手をした後金の獅子の足元にいるペルシャ猫を見た。
「わあ、可愛い猫ちゃんですね」
「ええ、わしの家族みたいなものですじゃ」
「触ってもいいですか?」
「どうぞどうぞ」
ひかりは猫を撫でる。
猫も嬉しそうに喉を鳴らす。
「双頭の鷲様、紹介したい人物がおるんじゃ。これ! こちらに来なさい」
すると壁際に立っていた男が近寄ってくる。
「わしの後継者のアルスですじゃ」
「初めてお目にかかります。アルスと申します」
「双頭の鷲だ。よろしく」
アランとアルスは握手をする。
アルスは中東の民族衣装を着ている。
「キンさんもそろそろ引退かい?」
アランがそう言うと金の獅子は白いあご髭をいじりながら答える。
「彼は幼い頃からわしが直に中東の地域リーダーとして育てた人物ですじゃ。今もいくつかの仕事を任せておりますんじゃ。口も堅い。きっと双頭の鷲様のお役に立てるはずじゃ」
「なるほど。中東の地域リーダーは重要ポストだからな」
アランは頷く。
「双頭の鷲様。どうかドレイクヴァロが目指す世界にアルスも連れていってやってくだされ」
金の獅子の言葉にアランは僅かに目を見開いて驚きの表情をしたが笑みを浮かべて答える。
「ああ。必ず俺は『ドレイクヴァロの夢』を引き継ぐよ」
「ありがとうございますじゃ」
金の獅子はホッとしたように頷いた。
これで先代たちの夢は受け継がれる。
新しい世代になってもドレイクヴァロは存在し続けて行かなければならない。
『ドレイクヴァロの夢』が実現するまで。
自分が生きている間にはその世界を見ることはできないだろう。
それでも『ドレイクヴァロの夢』を志した人間たちの想いは消えない。
双頭の鷲はこの世に選ばれて生まれてきたような人間だ。
彼ならばドレイクヴァロという巨大組織を率いていけるだろう。
「猫ちゃん、触らせてくれてありがとうございました」
ハッとしたように金の獅子は目の前のひかりを見る。
「どういたしまして。この猫は私以外には懐かないですがひかり様のことは気に入ったようですな」
「えっ、そうなんですか」
ひかりは少し驚く。
ペルシャ猫は金の獅子に抱き上げられて大人しくしている。
「動物は善人と悪人を識別できる。ひかり様は善人ですな」
「そんな私なんてたいしたことは無いし、いつもアランの役に立ちたいと思っても逆にアランに守られてしまうし」
「フォ、フォ、フォ。双頭の鷲様のお役に立ちたいとはいい心がけですがひかり様は生きて側にいるだけで双頭の鷲様を動かす原動力になっておりますじゃ」
金の獅子は面白そうにひかりに話す。
「そうですか? それなら嬉しいけど……」
「金の獅子の言う通りひかりはいつも側にいて欲しい。ひかりがいると俺は頑張れる」
ひかりは顔を赤く染める。
アランは誰の前でも「ひかりは俺のもの」発言が多い。
嬉しいが何度聞いても恥ずかしくて慣れない。
金の獅子は双頭の鷲とひかりを見つめた。
双頭の鷲がひかりを見つめる瞳にはとても「優しい光」が宿っている。
それだけで双頭の鷲がひかりをどれだけ大事な存在に思っているかが分かる。
そして金の獅子は知っている。
この双頭の鷲という男が滅多なことでこんな無条件で優しい瞳を誰かに向けることがないことを。
きっとこのひかりという女性はこれからのドレイクヴァロにとっても重要な存在になるだろう。
双頭の鷲がドレイクヴァロの総帥として君臨するために必要な存在に。
しばらく金の獅子と話をした後、アランとひかりは次の地域リーダーに会うべく旅立った。