「今日はドレイクヴァロの双頭の鷲様がいらっしゃるのでしょ? 狙撃訓練は止めておいた方がいいかな?」
まだ20歳になったばかりの青年は緑の虎に訊く。
金髪にグレーの瞳。
先代の緑の虎を思い出させるほど青年は先代の緑の虎に似ていた。
「訓練はいつも通りやってかまわんよ。訓練を1日休むとそれだけ狙撃の感が鈍くなる」
「分かった。じゃあ、俺は狙撃の訓練に行ってくる」
「ああ、行っておいで」
青年は部屋を出ていく。
部屋を出て行った青年は孤児院から緑の虎が引き取った人物だ。
彼の外見が先代の緑の虎に似ていたので緑の虎はその子供を引き取った。
最初は先代の緑の虎の血縁者かと思って彼の身元を調査したが先代とは関係なかった。
彼は孤児院にいたがそれは彼の両親が事故で他界し引き取る親戚がいないためだった。
引き取った当時は彼のスナイパーの能力を期待してたわけではない。
だがその子供はスナイパーの才能があったらしく緑の虎がスナイパーライフルの撃ち方を教えるとすぐに頭角を現した。
20歳の若さですでに2000mの標的を当てられる。
いずれ彼を自分の後の緑の虎にするべく地域リーダーとしての勉強もさせている。
先代緑の虎も言っていたとおり後継者を育てるのも仕事の一つだ。
青年は緑の虎のことを実父のように慕っていた。
地域リーダーの勉強は大変だと思うが青年は不平不満を言ったことはない。
「双頭の鷲様がお着きになられました」
執事が緑の虎に言う。
「ご案内しろ」
やがて応接室に双頭の鷲のアランと婚約者のひかりが現れる。
「久しぶりだね。トラさん。こちらは婚約者の両羽ひかりだ」
「初めまして。両羽ひかりです。よろしくお願いいたします」
ひかりは笑顔で緑の虎に挨拶をする。
「ようこそ、我が屋敷へ。私が緑の虎です。まあ、お座りください」
三人はソファに座る。
「そういえばトラさんは後継者を決めたんだって? まだ現役退くのは早くないかい?」
アランの言葉に緑の虎は答える。
「後継者候補はいますが代替わりはまだ数年先になるでしょうな」
「ふ~ん。やっぱりその人物もスナイパーなのかい?」
「ええ、彼はまだ20歳ですが2000mの標的を倒せます」
「2000m!?」
ひかりは思わず声を上げた。
「緑の虎は代々スナイパー出身者が多いんだ。今のトラさんは現役の時は2500mの記録を持ってるんだよ」
「2500m!?」
ひかりは衝撃を受けた。
コンドルの副リーダーでひかりのスナイパーの先生であるトーマスでさえ2500mの標的は倒せないだろう。
「たまたま出た記録ですよ。今の後継者候補の彼の方がもしかしたら新記録を出すかもしれませんな」
緑の虎は苦笑いする。
「ドレイクヴァロの若手スナイパーはトラさんが指導しているんだよ。優秀なスナイパーが育ってくれてドレイクヴァロとしても助かっているんだ」
「いやいや。みんなやる気のある若者たちだから教えがいがあります。優秀な人材の原石を見つける総帥や双頭の鷲様のお力には正直脱帽です」
緑の虎は真面目な顔で答える。
スナイパーだけに限らずドレイクヴァロは「人材育成」に力を入れている。
しかもけして「強制」ではなく自ら彼らはドレイクヴァロの構成員になることを望む。
それがこのドレイクヴァロという巨大組織を支える者たちなのだ。
ひかりはスナイパーの訓練を受けているから緑の虎の後継者という人物に興味が沸いた。
「後継者の方に会うことはできませんか?」
ひかりがお願いすると緑の虎は頷きながら答える。
「かまいませんよ。彼はちょうど今射撃場にいるはずです。行ってみますか?」
「はい。お願いします」
三人は射撃場に向かって歩いた。