赤の蛇が自室に戻ると側近の一人が待っていた。
「何か用?」
赤の蛇は基本的に人が自分のテリトリーに入るのを嫌がる。
それが例え側近といえどもだ。
幼い頃のスラム街での生活の名残かもしれない。
スラム街では子供を攫って売り飛ばすことなど珍しくもないのだ。
赤の蛇がスラム街で暮らしていた頃は人の目に留まらぬようにしていたので今でも人間は苦手だった。
今回始末した奴のように何か悪事を働いた時にドレイクヴァロの人間を装う輩もいる。
ドレイクヴァロの名前を使えば有利に取引ができるし警察も手だしをしないだろうと思っているらしい。
ドレイクヴァロの名を汚す輩は始末しなければならない。
もちろんドレイクヴァロはマフィア組織である以上いろんな闇の仕事がある。
けして慈善事業ばかりやっている組織ではない。
赤の蛇は幽霊や化け物は怖くない。
一番怖いのは生きた人間。
だから人がいるところで赤の蛇は寝たりしない。
「明日の午後2時頃、双頭の鷲様とその婚約者様がお着きになります。おもてなしはどういたしますか?」
「あ~そうかあ、ワシちゃんが彼女連れて来るんだっけ?」
赤の蛇は先日双頭の鷲から婚約者と一緒に各地域リーダーに挨拶に行くと言っていたのを思い出した。
「おもてなし? コーヒーでも淹れればいいんじゃね」
赤の蛇は面倒くさそうに側近の男に答える。
「お茶菓子ぐらい準備しましょうか?」
「いらねえって。毒物でも入れられたら困るからな」
赤の蛇はコーヒーも自分で管理して自分で淹れて飲む。
赤の蛇が治めるのはブラジルだけでなく南米の各国だ。
南米の国々はけして治安がいい所ではない。
自分の身は自分で守らなけれならない。
ドレイクヴァロに面と向かって敵対する組織はあまりないがそれでもドレイクヴァロの失脚を狙う人間たちはいる。
先代の赤の蛇の側近になってからその手の輩とのいざこざは日常茶飯事だった。
ドレイクヴァロの中で一番罪が重いのは総帥の一族を危険に晒すことだ。
赤の蛇の支配する地域で総帥の息子でもあり次期総帥の双頭の鷲やその婚約者に何かあったらそれだけで赤の蛇の首は飛んでもおかしくない。
「自分は知らなかった」などという言い訳など通用しない組織なのだ。
「それよりワシちゃんが午後来るなら午前中は墓参り行くから」
「承知いたしました」
側近は一礼すると部屋を出ていく。