それ以降は俺達は帰らされたから、後は泉姉さんから聞いた話だ。
克己達から逃げていた琴音の父親も呼び出され、警察署へと出頭した。
琴音はともかく、美冬は共犯となるだろうと言っていた。しかも殆どのやつらからマリファナやドラッグの反応が出たらしい。MDMA。通称「エクスタシー」と呼ばれているもので、二週間ほど前に俺達が渋谷の支部へ支援しに行ったときに関わったものだ。
やつらは渋谷をよく徘徊していたようで、ドラッグの流通に係わっていると思われる。司令官の方でもこれからさらに調べていくようだ。
そして美冬からもドラッグの反応が出たと言っていた。多分、克己とキメセクでもしたんだろうな。自分からかやらされたのかは知らないけど、こうなるとただでは済まないのは俺でもわかる。当分は娑婆には戻ってこれないだろうな。
琴音はドラッグの反応もなく、被害者と言うことで処理してくれたらしい。まあ、司令官の息がかかっているからこそできることだ。じゃなかったら共犯にされていただろう。
こうなっちまったからには久木家はおしまいだ。あれだけ近所迷惑やらかして、犯罪者まで出たんだから。
でもまあ、自業自得だ。
「・・・・・・チッ」
俺は缶のコーラを手にとって一気に半分くらいまで飲んでやる。そして焼けた肉も野菜も手当たり次第取って自分の紙皿へと乗せる。
「焼けたぜ、食おうぜ!」
俺は一人がっつく。
すると、
「おいおい一人で食いすぎだろ、自嘲しろよ」
じんたんは苦笑いしながら網の上に肉と野菜を乗せる。
「ふぅ・・・・・・」
つるこもため息はいた後に、残っている肉と野菜を取り始めた。
「そうだね、食べよ」
ナルもウインナーを取る。
「めんまも食べるー! じんたん、とってー」
めんまはじんたんへ紙皿を差し出す。
「あーもう少し待ちな」
そういいながらじんたんは肉をひっくり返す。火力が強いのですぐに焼けてくる。
「ほら、焼けたぞ!」
じんたんがそう言うと、すぐにみんな皿を出す。
まずはめんまに乗せてやり、
「俺も頼む」
続いてゆきあつ。
「じんたーん、俺もー」
その後にはぽっぽだ。
だが、千里はそんな様子を見ているだけでドリンクにも手をつけない。
「千里、食おうぜ」
俺は千里の持っている紙皿を奪うと勝手に取ってやる。
「ほら」
そして強引に押し付ける。
「うん・・・・・・」
千里はさびしそうに微笑みながらも受け取って食べ始めた。しばらくはこんな感じだろうな。だからこそ俺がなんとか癒してやりたい。当分はナンパはひかえよう。
それから俺達はいつものようにたわいもない話をしながらガツガツと食い始める。
ようやくいつもの俺達に戻ってきた。
そこで俺はじんたんに言っておきたいことを言う。
「リーダー、まだこれで終わりじゃねぇよな?」
元凶の克己は倒したが、それに関係しているやつらはまだ残っている。そいつらを根絶やしにしないと俺と千里の気がすまねぇ。
「なに言ってんの? 元凶を倒したんだから終わったでしょ」
と、ナル。
「まだ克己に関係あるやつが大勢残ってるだろ? こないだのドラッグのことも関係しているだろうし、そいつらの掃討に俺らも加わらせてもらおうぜ」
新たに焼けた肉を皿に乗せる俺。
「それは管轄外でしょ。支援要請があれば参加するけど」
つるこはサイダーを飲む。
「でもよ、都内のことは人手も足りねぇし、俺達にもやらせてもらおうぜ」
ぽっぽが拳を掌に打ち付けた。
「それならもうすでに泉姉さんに言ってある。私一人でもやるつもりだ」
千里がまた冷たい目つきに戻った。
「当然やるに決まってるだろ。俺だって今回、かなりムカついているんだ。ただ、それ以外なんだけどよ・・・・・・」
じんたんは考え込んでしまった。
「リーダー、他になにかあるのか?」
ゆきあつは網の上に野菜を乗せる。
「俺はなんか今回のこと腑に落ちないんだ」
じんたんが箸を止めた。
「腑に落ちないって?」
めんまがじんたんに問う。
「今回の件、他に誰かが関与しているんじゃねぇかって思ってるんだ」
「マジかよ!? 誰か怪しいやついたん!?」
と、ぽっぽ。
克己に関係するやつ以外に誰かが? 他に誰かいたか?
まてよ・・・・・・もしかしてあの時加勢してくれた人・・・・・・か? いや、それだったらわざわざ加勢なんてしないよな。
「いや、単なる直感でめぼしいやつがいるわけじゃない」
と、じんたん。
「じんたんがそう言うということは、誰か裏で関わっていたのがいるってことね」
「それも合わせて調べていく必要があるわね」
ナルとつるこが言った。
剣の修業で身に付けた(?)じんたんの「直感」は結構当たる。過去にそれでみんなが助かったこともある。
「そうだな、だけどこの件はしばらく俺に任せてくれないか? みんなは終わったと思っていつもどおり過ごしてくれればいい」
その言葉に、全員が頷いた。
もしじんたんのカンが当たっているなら、そいつは相当巧妙にやっているだろうし、派手に動いたら余計隠れられちまうか。
じんたんも頷き、
「それじゃ、この話はここまでだ。後はしっかり食おうぜ」
今度はじんたんが大量に自分のさらに乗せやがった!
「あーじんたんずるーい! めんまにもー!」
「ほらよ」
自分の皿からめんまに分けてやっている。
「わーい!」
そしてめんまはガツガツと食う。
「よーし、もっと乗せるぞー!」
ぽっぽが更に肉と野菜を乗せる。
「飲み物もまだまだあるわよー!」
ナルがクーラーボックスを開ける。
「おう、コーラもらうぜ!」
俺はコーラを取り出す。
「ハハハ、今日は材料余りそうにないな」
ゆきあつは焼けた肉を素早く取る。
「あ、そうだ! 今日ね、さーくんが道場に復帰するって言ってきたの!」
そう言っためんまの皿には、新たな肉と野菜が山になっていた。俺の分までとりやがったからな・・・・・・。
「え、本当⁉」
「急にどうしたんだ⁉」
つることゆきあつが言った。
「えっとね・・・・・・やっぱり強くなって誰かを守りたいんだっって」
少し哀しそうな表情になったが、すぐに笑顔に戻るめんま。
「それじゃ、まためんまと一緒に中国拳法やるの⁉」
「うん! 場合によってはサッカーやめてもいいとか言ってたよ」
ナルに顔を近づけて言う。さすがにナルも引いているな。
「サッカーやめてもいいって・・・・・・あいつサッカーに集中したいからやめたんだよな?」
じんたんのいうとおり、聡志はかつてめんまと一緒に道場に通っていたけど、同時にやっていたサッカーの方が面白くなって拳法はやめた。
なかなか筋も良かったし、もったいないとみんなで言っていたのを憶えている。
「でも、今日の朝にそう言ってきたんだよ。すっごい真面目な顔していたよ」
やっぱり今回の事があって自分の非力さを感じていたんだな。それで改めて強くなろうと決心したか。
「どうやら男のハートに火がついちまったようだな」
ぽっぽが自分の胸を叩きながら言う。
「だな。それに修行に励めば、心の傷も癒されるだろ」
じんたんが頷きながら言う。
「ところでさ、誰かを守るって誰を? あ、もしかして小梅ちゃんか⁉」
俺はそう言ってやる。
「はぁ? なんで小梅ちゃんが出てくるのよ?」
と、ナル。
「実はな、あの子も聡志を心配していたから、聡志のフォローを頼んだんだ」
「うん、それで今日から小梅ちゃんと登校していたよ。帰りも一緒だったみたいだし」
俺がそう言うと、めんまの口から新たな情報が出てきた。
「マジかよ! こりゃ、そこから進展もありえるぞ!」
「また一組幼馴染のカップルの出来上がり~?」
ぽっぽが言うと、なるがつまらなそうに言った。まあ、こいつは未だに彼氏いない歴が年齢だからな。かつてはじんたんに想いを寄せていたけど、めんまとつきあってからはなんとかふっ切ったみたいだ。
でもやっぱり彼氏ほしいんだろうな~。
「なによその眼?」
おっと、ナルに睨まれた。
「あーなんでもねぇって。それよりもだ、ここはひとつ俺らが仲持ってやろうじゃねぇか! なあじんたん」
俺はじんたんに言う。
「おいおい、逆効果になったらどうすんだよ。今度こそそっとしておいてやろうぜ」
「成功した例があるだろうが、ここによ」
俺は自分自身を指差し、千里を見る。
「え・・・・・・ば、バカ・・・・・・」
あーあ、恥ずかしがって下向いちまったよ。可愛いやつめ♪
「そうだったわね。まずありえないでしょっていう二人が恋人同士になったのよね」
つるこがフフフと微笑む。
「そう、だからこそうまく行ける確率は高いってことだ。ちょうど季節も今頃だったし」
「ということは、『ドキドキ!プールで水着大作戦』⁉」
「そのとーり!!」
と、めんまに親指を立ててみせる。
この作戦名は始めてみんなでプール行った時にめんまがつけた名前だ。まあ、提案したのは琴音だったけどな・・・・・・。
「いいねー! 今年まだ泳ぎ行っていないし、みんなで行こうよー!」
「そうだな、少なくとも気晴らしにはなるんじゃないか?」
ゆきあつもじんたんを見る。
「わーったよ。それじゃ、みんなで行くか?」
みんなが手を挙げて応えた。
「それじゃ、小梅ちゃんを誘って水着買いに行かないとね」
「行くのは次の土曜日にしとこうか。善は急げよね」
「うん、小梅ちゃんにメール入れておくね♪」
「フフフ・・・・・・聡志を落とせるようなのを選んであげよう。そしてあの時の恥ずかしさを味わってもらおうかしら・・・・・・フフフフ」
ナル・つるこ・めんま・千里はノリノリだ。ただ、千里の変な笑いが気になるけど。
「へへへ、楽しくなってきたな~~」
と、ぽっぽ。俺以上にスケベな顔してやがるぜ。
「俺もたまには良いこと言うだろ?」
「フッ、お前にしてはな」
と、ゆきあつ。そう言いながらも嬉しそうな顔しているじゃねぇかよ・・・・・・とは言わないでおいてやるか。
「お前らな~~。まあいいや、とにかく次の俺達の任務は聡志を元気づけてやることだ。だけど嵌め外しすぎるなよ」
「わかってるって♪ さあ、そうと決まったらしっかり食おうぜ!」
「「「「「「「おおーーー!!」」」」」」」
みんなが焼けている肉に箸を伸ばしていった。
これでまた面白くなってきたぜ!
いつまでもあいつらのこと考えていても仕方がねぇ。裏切ったやつらを嘆くよりも、新たに幸せになろうっていう二人を手助けしてやろうじゃねぇか!
そして本来だったら幸せになるはずだったやつらを壊した連中には、その幸せをぶっ壊してやる。
俺達の格言のとおり、稲妻の如くな。