(前回のつづき)
店内奥に何か大きな布のようなものが掛けられてあった。
国旗のようであった。
もしかしたら単なる商品としての絨毯なのかもしれないのだが、
やはり国を意識せずにはいられなかった。
それはさっきからポツポツと浮かんでくる、ジャンボジェット機に座って
無表情に正面を見据えているアラブ系の男性の顔がそうさせているのだった。
数少ないわたしの飛行経験の中でそんな男性を実際に見たことはないし、
もちろん、ここのご主人の顔とも違う。
その男性は一人ではない。
映画「フライトプラン」で濡れ衣を着せられそうになった男性かもしれないし、
映画「インサイドマン」でアラブ人に間違われたターバンを巻いた男性かもしれないし、
どこかの入国審査で不当に長時間拘束されてしまった男性かもしれない。
そして最後に・・やっぱり・・ここのペルシャ絨毯店のご主人と顔が重なってしまうのだった。
こんな一等地に売れもしない絨毯を大量に積み上げ、険しい目つきで店外煙草をふかしている。
彼のベストの裏には何が隠されているのか?
彼の後ろに回された左手には何が握られているのか?
彼の親族は彼に何を伝えられたのか?
そしてわたしは彼がターバンを巻いた風貌を想像してみる。
そしてその風貌のまま、彼がにこやかにわたしに話しかける。
ーその時、わたしの顔はやはり、少し引きつっているのだろう。
そしてこの絨毯店の誠実なご主人も、
あのエアシートに座っている男性たちの
仲間入りをしてしまうのであった。
(おわり)