金属製のテーブルの前に座っていた二人に、

長い沈黙がやってきた。
彼女はタバコをとりだし、ライターで火をつけ軽く吸った。
彼女はいつも3回吸う。
それ以上は吸わない。
吸い終わるまでに彼女を引き留めるセリフを言わなければならない。
だが、思いつかない。
2回目を吸い終わる。
思いつかない。
3回目を吸い終わる。
思いつかない。
パチーンとハンドバックの留め金のしまる音が周囲に響いた。
「じゃあね」と彼女は笑って椅子からたちあがった。
あけ放たれた店の出口から彼女は闇に没して行く。
最初は髪の毛が消え、
肩が消え、
スカートが消え、
そしてハイヒールも消えた。
自動販売機だけの喫茶店には店員の姿はどこにもなく、
店だけが暗闇の周囲に眩しい光を放っていた。
自動販売機だけの喫茶店には何でもあった。
ジュースやコーヒーだけではなく、酒もうどんもカレーライスもあった。
新聞や雑誌の販売機もあればジュークボックスもあった。
チョコレートの販売機もあったので、
百円玉をいれて、ボタンを押した。
「義理チョコでよろしいんですね」と、
販売機が言った。