もう、これしか方法はない




シャワーを浴びながら僕は、体を洗うギザギザのタオルがタオル掛けにあるのを確認しました



部署異動があって僕は、急に現場から立派なビルの中で働くスーツになりました



夜中まで毎日働きました
休みなんてなかった



楽しいことなんて何もなくなった
小さい娘と遊ぶ時間なんて全くなくなった




毎日パソコンと向き合っていた




ねぇ、最近、ずっと疲れた感じになってるでしょ
ここ、行ってみたら?



妻から言われて向かった先は心療内科
そんなところに行くのは初めてでした




うつ病ですね
ゆっくりまずは休んで下さい



先生から言われた言葉



あの日々からもう解放されると思った
ホッとした



最近ずっと、自分が自分じゃないような気がしてたのはこのせいだったんだ


薬を飲んでゆっくりすれば、前のように笑える




だけど、ダメだった



薬は効かない
この感覚も消えない



毎日家の布団にうずくまって



子供が笑わなくなった



妻との言い合いになることが増えた



会社の対応も変わった



人生の何もかもが崩れたと思った
もう、元には戻れないと思った


僕がようやくつかんだと思ったささやかな幸せは幻だったと思った



だったらいっそのこともう、こんな苦しい毎日と、さよならしたくなった



やり方はずっと考えていた



お酒を飲んで、これを首にまいてあの取っ手に引っ掛けて、お湯の入ってないバスタブに飛び込めば、


もう終わるんだ



空の浴槽に向かって僕はジャンプしました




ごめんね



そっとつぶやきました







首元が閉まる感覚


目の前が紫色になって




1秒?2秒?



噂に聞く走馬灯なんてなかった
スローモーションもなかった
苦しさもなかった



ただあったのは、こんなことしなければ良かったって気持ちだけ


怖くて仕方がなくなった
でも、もう戻れないんだって思った



やっぱり助けてって言いたかった
死にたくないって言いたかった





でも、もう言えないんだって思った









腰にドンという衝撃



頭からかかる冷たいシャワー



手を見ると
つよく握りしめすぎて開かなくなった僕の手に、ちぎれたタオル



ギザギザのタオルは僕の体重を支えきれず、すぐに切れてしまったようでした



少し水が溜まり始めたバスタブにしりもちをついたまま僕は泣いていました



何の涙?よくわからない



自分で決めたことなのに
この結末にすごく安心していた




僕には何もなかった
死ぬ勇気さえなかった



ちぎれたタオルをぼうっと見つめながら僕は、涙のあったかさがやけに気になっていたのを覚えています



5年以上も前の出来事です