今日は、軍曹と接待。これが一番嫌だったりする。

接待相手のゼネコンの会長が、握った右手に、ぎゅっと力をこめ、念を入れるように、もう一方の手を、上からかぶせてくる。

じっとりと、汗ばんだ手のぬるりとした感触…。マネキンの手でも、袖口に縫いつけてくりゃ良かった。

「本気なんだよ。初恋なんだ。この歳でと信じては貰えないもしれないが、私の囲われ者に、なってくれないか。○○くんの前だが、な、少し耳を塞いでいてくれ。」

囲われ者?…ざけんなよセクハラ爺ぃ…。とは言え、古くからの大切なお取引相手。無下に蹴飛ばす訳にも行かない。

しっかし、この前世、花魁ででも有ったのだろうか…。

「聞いてるよ。君の武勇伝は。私の人生で、たったひとつだけ失敗したモノが有る。それは、女房だ。私は、君のような、愛嬌のある腹の座った女を娶りたかった。悪妻が、男を育てるというがね、女房を見るのが嫌だった。紛らわすために、仕事に打ち込んだ。」

愛する女のために生きた父とは、真逆だ…。

会長夫人の話は知っている。

身持ちの悪い村長の娘が、誰のだか判らない子を身篭った。巡査が、一人モンの若い衆を並べて、『お前が一番いい男だから、嫁にもらえ。』と、強要されて、泣く泣く一緒になった。触れもしない女房なのに、いつの間にか、3人の子持ちになっていた…と。

「妻では、私を満たせない。あれは、あまり頭の出来が良くない。足を引っ張られてばかりだった。私は、洒落た会話の愉しめる女、頭の切れる女を妻にしたかった。そうすれば、もっと、会社も大きくなっていたかもと、何度思ったか。つまらん生涯だった私の夢を叶えてくれないか。」

男ってもんは…倒木のようになっても、まだ、恋愛に浪漫を求めるものなのか。

だが、囲われ者なんて、冗談じゃない。まさか腹上死なんてモノをされた日にゃ、洒落にならん。

『惚れた女の腹の上で死ねるなんざ、これ以上はない極上の死だよ。男としちゃあ、最高の死に様だ。』

あれは、誰の言だった?

『お前の腹の上で死にたい。』

芝浦は、もはや、覚えてもいないだろう言葉と、私は、こうして、日々、ダンスを踊る。

握ったまま、離そうとしない手を、軍曹が、離させる。

そうした瞬間にも、芝浦への想いが吹き出す。

『嫌よ。貴方のいない世界なんて、一秒だって、生きていたくない。』

諦めを着せていた芝浦への想いの強さに、午後が、戸惑いに染まる。