ブロ友の「なんやろさん」の記事は、楽しみの一つです。

「海辺のカフカ」の記事を書いたのも、彼女の記事を読んで、もう一回読み直す

機会をくれましたし、ついこの間は大阪西区出身の夭折の文学青年梶井基次郎の

碑を散歩の途中で激写、ブログに貼り付けてくれていました。

 「檸檬」という短編集を随分昔に読んで、あの時代の文学を志していた青年に

あこがれたものですが、(亡くなってから文豪の仲間入りですが)それもすっかり

忘れてしまっていたんですが、思い出してコメントしました。

押入れのダンボールの中に入ってるはずなんですが、この間引っ張り出したら、

カフカの「変身」も出てきたくらいですから。きっと入っているはずです。

 そんなワタシのダンボールの中をひっくり返すきっかけを「なんやろ」さんの

記事が作ってくれるんです。目の前の新しいことが、以前のように時間をかけな

くても、キーボードを押せばどんどん入ってくることが善いのか、悪いのか?

頭が柔らかい時に、一々感動していたあの頃の感動を確認する事の方が、ワタシ

にとっては、もっと新鮮な感じがするし、当時のワタシに逢えるんです。



 檸檬といえば、すぐに思い浮かべるのが久坂葉子の「檸檬」と言う詩です。この詩は

大好きで、以前ブログに書きました。彼女もまたタナトスを背負った生き方をした

美しい文章を残した美しい女性です。

檸檬。。。レモン。。。

若い時はあんな酸っぱいだけのモノをなぜ丸齧りしたんでしょう?



 今日は「レモン哀歌」を書いてみます、これは高校の教科書に載っていたはずです

からたいていの人が知っている詩だとおもいます。




   そんなにもあなたはレモンを待つてゐた

   かなしく白いあかるい死の床で

   私の手からとつた一つのレモンを

   あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ

   トパアズいろの香気が立つ

   その数滴の天のものなるレモンの汁は

   ぱつとあなたの意識を正常にした

   あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ

   わたしの手を握るあなたの力の健康さよ

   あなたの咽喉に嵐はあるが

   かういふ命の瀬戸ぎはに

   智恵子はもとの智恵子となり

   生涯の愛を一瞬にかたむけた

   それからひと時

   昔山巓でしたやうな深呼吸を一つして

   あなたの機関ははそれなり止まつた

   写真の前に挿した桜の花かげに

   すずしく光つレモンを今日も置かう


 高村好太郎と智恵子の深い愛を書いた詩です。

 たぶん、昔読んだころの自分に逢えたんじゃないでしょうか?

 当時、相手のことを名前じゃなくてあなたとか君とか呼ぶのを、素敵だと思って

 いました。結婚したら相手のことを「あなた」と呼べるかな、呼びたいな。

 何回か結婚、離婚を繰り返しましたが、とうとう相手をあなたと呼ばずじまいです。

 
 「あなた」。。。「アナタ」

 でわ、「アナタ」についてのお話を書きます。

 何処で読んだのか、いつ読んだのか、本だったのか?新聞の記事だったのか?

 全く忘れてしまいましたが、

 南極観測隊の一員である夫に送った手紙、日本一短い、日本一温かい、日本一

 美しい手紙。

 電報に書かれた「ア・ナ・タ」たったそれだけ。。。

 隊員全員が号泣したそうです、その記事を読んだワタシも目の中が熱くなって、

 鼻の奥が痛くなって、ぎゅっと目を閉じたとたんにジュワーと音がしそうな熱い

 涙が流れました。

 「アナタ、ゲンキデイマスカ、ワタシモ、コドモモゲンキデス。アンシンシテ

  シゴトガンバッテクダサイ。」そんな言葉じゃ想いを伝えられない。

 想っていることが、言葉に出てこない「アナタ」の次があまりにもいっぱいあり

 すぎて、何をどう言っていいのかわからない。胸が破裂しそうなほどの想い。

 家族を置いて、南極なんて想像もつかない場所で仕事をしているのは本人も家族も

 不安でいっぱいです。隊員それぞれが次の言葉を家族の言葉で想い、号泣したので

 しょう。毎日の緊張がどっと流れ出し、明日への活力となったに違いありません。

 
  この話、ツレに話ました。

 俺もっといい話してやろうか?

 ツレが独身の頃、勤めていたデザイン事務所に一番古いというか、若いデザイナー

 の中で、一人年配の人がいて、その人が離婚後10年経って、とうとう再婚したのだ

 そうです。それがかなり歳の離れた女性らしく、その女性は押しかけ女房でした。

 むっつりとして、あまりしゃべらないし、一人だけ、歳が離れてる社員なので

 どうしても若いグループの中に入れないけど、仕事は皆から尊敬されるような

 熟練工のような仕事をしていたそうです。でもはっきり言って冴えない男。

  若い人達は皆お昼には外へ食べに出ますが、彼は一人愛妻弁当を食べています。
 
 ある日、ツレが、なにげなくのぞいたお弁当のご飯の上に、紅生姜で「バカ」って

 書いてあったそうです。

 それから、ちょいちょいのぞくといつも紅生姜の「バカ」が白いご飯の上に。。。


 そんなことがあって、その先輩を改めて観察、無口この上ないパッとしない

 男だけど、母性本能をくすぐるような、ほっとけないタイプ。

 俺も好き女からバカって言われたいなと思ったそうです。



 どうです?

 短い言葉の奥には深い想いが詰まっているものです。

 というより、短ければ短いほど、相手の想いが伝わる気がします。

 夫婦であっても、そうでなくても男と女が片方を想う気持ちは長々と言い訳が

 ましい言葉じゃなくて、短くて的を得る、キュピットの矢が刺さるような言葉

 があるはずです。

 といって、今夜あたり「あなた、バカ」なんて言わないでくださいね。

 でわ、今夜はこの辺で。