ネットで源さんの「足跡」をたどってみました。けっこうありました。中には動画もあり、源さんが生きているように見えます。(容量が大きいので何回かに分けてはりつけます)。

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谷口 源太郎

スポーツジャーナリスト

1938年鳥取県生まれ。

早稲田大学中退。講談社、文芸春秋の雑誌記者などを経て、現在、フリーのジャーナリストとして数々の雑誌で活躍。

スポーツを社会的な視点から捉えた切れ味のいい文章には定評がある。中でも、98年の長野冬季オリンピックの招致問題では、コース開発による自然破壊とJOC会長堤義明氏が経営するスキー場との関わりで大論陣をはり、堤義明JOC会長辞任劇の真相を暴いたことで知られる。特に、スポーツビジネスの分野における調査、分析力は出色。東京新聞夕刊連載「ウォッチング<スポーツの広場>」にて1994年度ミズノ・スポーツライター賞受賞。

■著書

「スポーツを殺すもの」(花伝社)

「日の丸とオリンピック」(文藝春秋)

「冠スポーツの内幕 スポーツイベントを狙え」(Nikkei Neo Books)

「堤義明とオリンピック 野望の軌跡」(三一書房)

「スポーツの真実 迷走するスポーツ界の影と光」(三一書房)

「巨人帝国崩壊」(花伝社) 他


注目の人 直撃インタビュー

スポーツジャーナリスト谷口源太郎氏「五輪とその周辺はブルシット・ジョブの巣窟です」

公開日:2022/09/05 06:00 更新日:2022/09/05 06:00

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谷口源太郎さん(スポーツジャーナリスト/84歳) 谷口源太郎氏(C)日刊ゲンダイこの記事の画像を見る(3枚)

 東京五輪・パラリンピックの組織委員会で理事を務めた、元電通専務の高橋治之氏が受託収賄容疑で逮捕された。スポンサー選定を巡り、「AOKIホールディングス」から5100万円の賄賂を受け取った疑いだが、これはカネにまみれた「五輪の闇」の一部が明らかになったに過ぎないのではないか。汚職の背景にはなにがあるのか。マネーファーストに堕落した五輪に厳しい目を向け続け、「オリンピックの終わりの始まり」などの著書があるスポーツジャーナリストに話を聞いた。

 ──組織委員会の高橋元理事が逮捕された。一報を聞いたときは?

 ついに逮捕されたか、という思いと同時に東京五輪の闇がどこまで解明されるか、疑念を抱きました。

 ──というと?

 五輪をはじめスポーツのビッグイベントの裏側を取材する中で、1980年代からさまざまな場面で「高橋治之」という名前は聞いていました。ただ、メディアが報じているような「スポーツビジネスの第一人者」という表の顔ではなく、フィクサーというか裏の顔の部分についてです。昨年の東京五輪・パラリンピックでも招致段階から、高橋元理事が暗躍していた。だから、彼が逮捕されて、五輪スポンサーに関するAOKIからの5100万円の受託収賄では終わらない、終わらせてはいけない、とすぐに思った。逮捕にあたり、高橋元理事の自宅や彼が代表を務めるコンサルタント会社の「コモンズ」、贈賄側のAOKIはもちろん、電通や解散した組織委員会の清算法人に家宅捜索が入った。招致をめぐる買収疑惑や政界まで捜査が及ぶとすれば、大きな五輪汚職事件につながる。単なる一スポンサーとの贈収賄事件に矮小化してはいけません。

弟の資金力を武器につくり上げた虚像

森元首相らに囲まれる高橋元理事(C)日刊ゲンダイこの記事の画像を見る(3枚)

 ──高橋元理事に関しては「スポーツ界のドン」とか「五輪の黒幕」とかさまざまな異名がある。スポーツ界の表も裏も知るキーマンであることは確かなのでしょうが、実態がわからないところもあります。

 そうなんです。実像が伝わっていない。高橋元理事がどうやって古巣の電通、スポーツ界で台頭したのか。忘れてはならないのが、弟の存在です。

 ──バブル期に不動産業の「イ・アイ・イ・インターナショナル」の代表として、ホテル・リゾート開発を手掛けた高橋治則氏ですね。

 最盛期にはその企業グループ全体の総資産が1兆円を超えたといわれた。高橋元理事はその弟の資金力をバックに電通でのし上がり、スポーツ界での人脈づくりに利用した。広告代理店の一社員であるにもかかわらず、弟のプライベートジェット機を自由に使ってFIFA(国際サッカー連盟)や国際陸上連盟の幹部らを接待し、スポーツVIPとの関係を築いたわけです。電通では一介の社員時代から運転手付きの高級外車で通勤していたという話を関係者から聞いたことがありますが、弟の財力を武器に自らの自己顕示欲を満たしつつ、周囲を畏怖させて「大立者」「ドン」という虚像をつくり上げた。「ブルシット・ジョブ」を広げていったわけです。

 ──ブルシット・ジョブとは?

 米国の文化人類学者、デヴィッド・グレーバーの造語で、和訳すれば「クソどうでもいい仕事」。つまり、本来はなくてもいい仕事ということになる。広告代理店はその象徴的な業種でしょう。ブルシット・ジョブの出現は1980年代に米国のレーガン元大統領、英国のサッチャー元首相、日本の中曽根康弘元首相らが加速させた新自由主義による市場原理や民間活力の導入などと時期を同じくし、1984年のロス大会から商業化された五輪もその流れの中にある。

 ──そうした時代背景の中、電通が日本における五輪の利権をほぼ独占するようになった。

 電通は東京大会でもスポンサーから3700億円もの協賛金をかき集めて大会を主導、150人以上もの社員を組織委員会に出向させて中核となるマーケティング局をはじめ運営全体を牛耳った。東京五輪の開催経費は当初予定の7300億円から1兆4000億円にまで膨れ上がりました。経費が膨大になった裏には、電通がつくり出した多くのブルシット・ジョブにかなりのカネがバラまかれたのではないでしょうか。

 ──経費の話で言えば、高橋元理事には招致段階での活動費の疑惑も残っている。招致委員会から高橋元理事のコンサルタント会社「コモンズ」に820万ドル(当時のレートで約9億円)もの大金が振り込まれ、それをロビー活動に使っていたとされる問題です。そもそもコンサルタントというのが、まさに……。

 ブルシット・ジョブですよね。9億円ものカネをどのように使ったのか、明らかにして欲しいものです。本当にロビー活動に使ったかどうかも判然としないわけですから。東京は2016年大会にも立候補しましたが、当時の招致関係者に聞いたところによれば、あのとき招致委員会は150億円の活動費を、海外を含めた30以上の得体の知れないコンサルタントと称する人、組織にバラまいたといいます。しかし、その結果、ブラジルのリオデジャネイロに敗れた。

 ──150億円も、30以上のコンサルもまったく意味はなかった。

 それで、2020年大会招致については、竹田恒和招致委理事長らは世界のスポーツ界にパイプを持つ高橋元理事を頼るようになった。いずれにしろ、招致段階から莫大な金がかかるわけですから、マネーファーストに徹する五輪、IOC(国際オリンピック委員会)そのものがブルシット・ジョブをつくり上げ、コンサルタントの跳梁跋扈を生み出しているといえます。五輪とその周辺はブルシット・ジョブの巣窟ですよ。

JOC内からも30年札幌招致「取り下げるべき」

平和の祭典の裏で…(C)JMPAこの記事の画像を見る(3枚)

 ──東京五輪は逮捕者まで出し、「五輪汚職」の文字がメディアに躍っている。にもかかわらず、2030年冬季五輪の札幌招致に動き出しています。

 とんでもないことです。JOC(日本オリンピック委員会)関係者の中からも、「今すぐ札幌招致を取り下げるべきだ」という声が出始めています。しかし、「今、JOCにできることはなにか。高橋逮捕を受け、組織委員会の一員だった責任を果たすべく、独自に東京五輪で起きた問題、疑惑を第三者委員会をつくるなどして調査すべきだ」との意見を持つ理事はひとりだけだといいます。

 ──JOCの山下泰裕会長は「2030北海道・札幌招致に関して影響はできるだけ出ないように。これまで以上に関係者が力を合わせて全力を尽くしていくしかない」とのんきなことを言っていた。
 

 山下会長はリーダーシップがまったくなく、一から組織を組み直さないと、JOCは本当におしまいになってしまいます。東京五輪の疑惑が広がる中で、JOCも後押しして、なんの理由、根拠も明らかにされないままの札幌五輪招致は決して、国民・道民の理解は得られませんよ。即刻、招致を中止するべきです。

(聞き手=森本啓士/日刊ゲンダイ)