精神のエキスを味わう。
著者は,「精神のための清涼剤としては,ギリシア,ローマの古典の読書にまさるものはない。」「古典の大作家のものであれば,誰のものでもよい。」と述べている。
そして「古典語という完全無欠な言語のせいであろうか。」「いく千年の歳月にも傷つけられぬ作品を生み出した精神の偉大さであろうか。」「この二つが相伴って,我々の精神に不思議な作用を及ぼすだろう。」と理由を述べている。
「古典語」については,もちろんわたし自身も全然わからない。
高校の時の”古典”の授業で習ったぐらいで,しかも成績がよかったとはいえなかった。
その授業で印象に残っているのはいくつかの代表的な作品の冒頭部分を暗唱させられたことだ。
たとえば,『平家物語』の冒頭部分
「祇園精舎の鐘の声,諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色,盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず。唯春の夜の夢のごとし。たけき者も遂には滅びぬ。偏に風の前の塵に同じ。・・・」
授業ではもう少しだけ先まで暗唱した。
今はもうしっかりとは覚えておらず,おぼろげながら,といったところだ。
それでも何となく諳んじてみれば,リズムがいいというか,そんな気がしてくる。
古典語が完全無欠かどうかはさておき,下品ではないというか,美しさがあるのではないだろうか。
むしろ,”数学の美しさ”に似ているのかもしれないと思うのは職業柄だろうか。
「歳月にも傷つけられぬ作品」。
これはもう,これだけで素晴らしい。
言うまでもないが,現代の人に認められるだけではなく,作品が生まれた時代から現代に至るまでに,
よい作品と認知されてきたということに他ならないのだから。
もちろん書物に限ったことではなく,絵画もそうであるし,音楽についてもそうであろう。
長い年月を経て現代に存在しているものは味わうべきものである。
わたしは,いわゆる”作品”だけではなく,方法論なども全く同様ではないかと思っている。
そして「作品は著者のエキスである。」と述べていて,
こういった”作品”を読むと言うことは,
まるで何十年も寝かせておいたブランデーを,難局にある何万年も前の氷で味わうかのごとくだとでも言っているかのようである。
しかも,味わうのは一度ではない。
「「反復は研究の母なり。」重要な書物はいかなるものでも,続けて二度読むべきである。」とし,
その理由は,「一つの対象を違った照明の中でみるような体験をするからである。」と述べている。
このあたりの主張は,正直言って,著者らしくない。
逆説から入っていくこの”作品”で,あまりにも当たり前すぎることを,素直に主張をしているのである。
思いつくことと言えば,大事なことなので素直に述べたかったのだろうということぐらいである。
ブランデーも一度でなく,続けて二度味わうべきなのだ。
知っている味なので,一度目のように驚くことは少ないかもしれないが,
より深く味わうことで,様々な思いが浮かぶに違いない。
味わうというか,食べることで言えば,体に悪いもの,食べるべきでないものがある。
同じように「悪書は無用なばかりか,積極的に害毒を流す。」と著者が述べている。
そう,悪書は毒なのだ。
毒のあるものを食べてしまえば,体に反応が出るし,
時には死に至ることもあり,進んで摂取しようとは思わない。
だが,読むという行為については,正直言ってそこまで敏感にはならない。
しかし,著者はその鈍感さが許せないのである。
なぜなら,悪書は毒なのであるから。
そして,読むべきものについては,
「比類無く卓越した精神の持ち主,すなわちあらゆる時代,あらゆる民族の生んだ天才の作品だけを熟読すべきである。」「このような作品だけが,真に我々を育て,我々を啓発する。」と。
そして,「良書を読むための条件は,悪書を読まぬことである。」と述べている。
主張が当たり前すぎて著者らしくないといった。
2節目でいきなり「読書は,他人にものを考えてもらうことである。」
「ほとんど丸一日を多読に費やす勤勉な人間は,しだいに自分でものを考える力を失っていく。」とし,
まるで読書することは考えることとは対極にある行動のように述べている。
ただ,これについては読書量が多いからと言って,ものを考えることができるかと言えば,
必ずしもそうではない人が少なからずいるというのも事実であろう。
ここでも著者は「熟慮を重ねることによってのみ,読まれたものは,真に読者のものになる。」としている。
食べ物を何も考えずに食べることと,考えながらよく味わって食べることの違いだろうか。
ちょっと違う気もするが,栄養バランスもそうだし,スポーツ栄養学などでも考えて食事をする方が,本人の血となり肉となるのである。
読書論について,食べることというか,味わうことと一緒に考えてみたが,どうやらそう違いはないらしい。
何を,どう読むか,考えながら感想を書いていきたい。