わかるひとにはわかること | ***



ところが、そこでおもしろいことが起きる。
もちろん、そのまま突っ走り、「夫と別れてこの人と結婚したい」と言い出す人もいるが、多くの場合、恋人との関係が一段階したら「やっぱり夫との生活を継続します」と落ち着くのである。
女性として、人間としてまだ自分が求められている、と自信を得たあと、補填されたエネルギーを注ぎたいのは夫や夫との結婚生活のほうだった、という人が少なくない。お相手をした恋人も「結婚までは」と思うのか、「そろそろ終わりにしたい」という女性側の申し出にすんなり応じる場合が多い。

結局、妻としては元サヤに収まり、夫は何が起きたかも知らないまま元の生活を継続ということになるのだが、結果的には八方が丸くおさまる形になる。




井上荒野著
【それを愛とまちがえるから】
精神科医:香山リカ解説より抜粋