2005/6/4
止まってしまった時間の上に流れるものを夢といいますか?
6月の太陽のポテンシャルのことを何度も何度も言って送り出した。
その日差し浴びる人みんなにわたしの記憶ぜんぶあげたい。
何ひとつ思い出すことがないことを誕生と思うから。
冷淡と思われてもかまわない、7月は毎日わたしにおめでとうと言ってください。
「ピンク・バス」角田光代
大好きから大嫌いになった。
食べ物が生き物に変わった瞬間だったのだろう。
「ピンク・バス」の主人公サエコは、気の遠くなるような自分探しの果てに
ようやく専業主婦に落ち着いたのだったが
妊娠が分かってから、その日常が不穏に変わる。
夫タクジの姉・実夏子がふらりと迷い込んできてから
サエコの日常のゆがみはますます大きくなる。
日常をかき乱す姉・実夏子は、サエコの思い出したくないある一時期までも思い出させる。
散々にかき乱した実夏子は、ピンク・バスのお招きにしたがって
そのままふうっと消えてしまう。
回想に出てくるサエコの学生時代の知人・鉄男にしてもそうだが
この実夏子にしても、日常をふっと越えてしまったあっち側の世界に
行ってしまった者はたいそう楽だ。
簡単に飛び越えられないサエコは変身願望を繰り返しながら
常に今の自分の位置に落ち着かず、じたばたする。
このじたばたは、物語の完結後も続くと予想できるから
決してすっきりした読後感を味わえるわけではない。
それでも常に今の自分と格闘しつづける角田作品の味わいが癖にな り
次の作品に手を伸ばしてしまう。
2005/5/7
未明。
ビデオテープを回したまま眠っていた。
消してしまったとばかり思っていたものがそこに流れていた。
どんなに戻りたくたって
もうこの頃のわたしには戻れないんだ。
どんなに手放そうと思ったって
こんなふうにめぐりあっちゃうんだ。
ぼんやりとした意識の中で
ぐらりとした揺れを感じた。
震度3の速報が流れなければ、夢としか思えないほどの。
今日きっとまたわたしは困らせることを言ってしまうだろう。
2001/12/06
「起きる」というよりも「めがあく」という表現がふさわしいほどに自然な、
そして、さきほどまでの眠りはきのうの眠りではないかと錯覚を覚えるほどの、
日々変わらぬ目覚め。
会社に着いても日々の変わらなさの変わらなさ。
きのうがきょうで、きょうがあすか。
単調さは、むだのない動きを追求させ、それらはいずれほとんど様式美に近いものとなる。
封筒を小脇に歩く姿勢、端末にむかって弾き出す音・リズム、
プリンターまでの歩数7、出力紙確認から封入までの紙さばき。
もはや迷うことなくなされる夕食の買出し、
ひとかけの甘い菓子にむせびつつ、それぞれの持ち場に戻る。
昼の活気が集中力にかわる夜、空気はとろりとした匂いを放つ。
PCを立ち上げ、風呂に湯をため、画面の向こうがわの世界は湯気で夢うつつ、
CD3周めの半分を過ぎたころ、部屋の灯り消し、目を閉づ。
限りなく朝に近い夜、暗きけはひを感じつつ、長き一日ここに果つ。
2001/10/28
大好きな男と会いました。正確には、大好きだった。
あんなに好きだったのに、ピンとこない。
困ったわたしは。
彼を仰向けに横たわらせ、裸にし、頭の先から足の先まで、
それらにまつわるひとつひとつの思い出を呼び起こしながら口づけていき、
それでも最後まで一滴も涙がこぼれなかったら。
葬送完了。
わたしのきもちの。
大好きなひらめのにぎりをほおばりながら企てました。
2005/2/17
肝心なときに
それぞれがそれぞれの相似であるというふうにしか
考えられなくて、ぼーっとしています。
相似形のまえでは、自分の意志なんて意味を持たない。
守られてることも、思いやることも、排除されてることも
みんな同じね。
2001/10/13
職場の人の送別会。
なんというのだろう、こう、1日のごく薄く薄くスライスされた時間を共有し、
日々積み重ねてゆく、ただそのことだけによって生まれたあたたかな感情。
それを相手に伝えるのはとても難しい。
その思いの濃さや温度や密度にふさわしい表現―。
そんなのを考えあぐね、心の中でもぞもぞする。
不意に彼女の口から、「最近読んで感動したのは、山田詠美の『姫君』」
わたしは息を呑み、彼女をじっと見つめて、ゆっくりとうんと頷く。
その頷きが、わたしの彼女に対する好意を、いかほどか伝え得たのかは分からないのだけれど、
わたしはそんなので十分な気がした。
そうしてわたしたちは、有形無形、お互いを思うあたたかな気持ちを
日々渡し合っていて、そのことを考えたら、感謝の気持ちで涙ぐみそうになり、
プレッシャーと不安で発狂して駆け出してしまいそうになり、自意識に溺れて息苦しくなってしまうのです。
そしてこの息苦しさを幸せと呼ぶのかもしれません。
