タクシーを降りると、こっちこっちとおばちゃんが歩き始める。

「どこへ行くの?」

「このあたりは来たことある?」

質問に対して質問で返してきた。

こっちが警戒しているのを読み取ったのだろうか。

しきりに大丈夫だからと言ってくる。

「お金200元(当時の約2,400円)しか持ってないからね」

何度も繰り返し言うが、おばちゃんはオウムのように大丈夫だからの一点張りだ。

歩くこと2分。

派手なネオンが煌々と輝いているビルの前でおばちゃんが言った。

「ここだよ!」

やっぱりかと半ば呆れながらも、先導するおばちゃんについて階段を降りて行った。

地下にはいかにもといった感じの店が、どうぞどうぞとお待ちかねだ。


カランコロン。


「いらっしゃいませ!」


元気のいい声が迎えてくれる。

それほど大きくないお店だ。

緊張しながらも、お店を見渡していると奥の立派な席へ案内された。

「200元しか持ってないからね!」

お店に入る前よりも大きな声で、繰り返し何度も言った。

「大丈夫よ!」

おばちゃんの表情が若干ウザそうに見えた。

席に着くや否やボーイがおしぼりとフルーツを持ってきた。

そして、お酒は何がいいかメニューを広げて聞いてくる。

一番安いお酒を選んでいると、日本語が聞こえてきた。


「いらっしゃい!」


振り返るとおばちゃんと同じ年くらいの派手な格好をした女性が話しかけてきた。

隣に座ると、手に持っていた名刺を渡してきた。

どうやらこのお店のママのようだ。


「初めてだよね?」


馴れ馴れしい日本語で胡散臭い笑顔に、ますます落ち着かなくなった。

反対側に座っているおばちゃんを見ると、とても親しげに話しかけている。


一通り挨拶を交わした後、ママが聞いてきた。

「何飲む?」

「お金ないし、一番安いやつでいいよ・・・」

「お金は大丈夫よ」

「ん?」

「彼女が払うから」

よく意味が分からなかったので、もう1回聞いた。

「ん?」

「だから、お金払わなくて大丈夫よ」

完全にからかわれていると思い、また同じことを言った。

「200元しか持ってないよ!」

ママが言う。

「だから、何回も言うけどお金はかからないよ」

すかさず返した。

「1円も?」

「1円も!」

混乱と同時に何かヤバいところへ来てしまったと焦り始めた。

何が目的なんだろう・・・。