ぺちゃりと倒れた黒猫を見つけた。


小さな雑巾ぐらいの子猫の体だ。


しばとらぐらいの運転技術なら、タイヤの位置も確実には分かってないから、避けたつもりでも避けきれない。事実、あたしたちが信号待ちの間にも子猫の体や通り過ぎる車のタイヤに触れて2度3度とはねた。


目の前の横断歩道の端だ。


その度に、しばとらは、悲鳴をあげずにはいられなかったみたいだ。



あたしたちは、あたしたちを避けて車がさらにその小さな体を避けた場所を通るように、横断歩道に足を踏み出した。


信号が青になって、近寄ってみるとまだやっと跳ねて遊ぶようになったぐらいのほんのほんの子猫だった。


置いておけずに、しばとらは、鞄からタオルを引っ張り出してその体を包んで抱き上げた。



引き取りに来てもらえるよう、電話連絡をし、待つ間に、最後のうんちをとりのけて体を洗って乾かした。


雨でぬれた体を洗おうと触れると、まだ体温が残っていた。ほんの今しがた、しばとらが友達の玄関先でもう失礼しようとしながらほんの一言二言、引き留められている間の事故だったのだろう。


なぜ雨の中、子猫はあんなところで事故にあったのだろう・・・


体を洗面器の中で洗うと、濡れているのは体の側面、ぺちゃりと倒れ、地面に触れた部分と上から降った雨に濡れた部分、ぐっしょりと濡れているのは、歩いたはずの足の裏。背はあまり濡れておらず、頭は乾いていた。


なぜ、子猫はあんなところで事故にあったのだろう・・・


まだ小さい子猫が出歩くには無茶な道路であった




体を乾かして、タオルでくるんで小さな段ボールにおさめようとして、しばとらは手を止めた。


ママ猫に抱かれているはずの子猫だ。タオルよりTシャツの方がいいように思えた。



もしや・・・



雨の中、あの子は連れてこられ、捨てられ置き去られたのではなかったか・・・


なれない道路でふらふらと前に出て、濡れるほどの時間もかからず事故に遭ったのではなかったか・・・



もうちょっと早く、友と分かれて交差点に至れば、あの子は生きていたのではなかったか・・・



孫息子のくろも、置き去られて心づくしの飲み水の容器を倒し、灼熱の太陽を避けて溝の影に身を寄せて鳴いていたっけ。せめて誰かに保護されよとの置き去りであったことが伺える場所であった。

それでも、衰弱していたっけ。


しばとらは、あたしたちには寄るなと言って、その猫を洗って乾かしていたけれど、雉トラは、何を思ってかそばにじっとたたずんでいた。ひょっとしたら、彼女が抱いて可愛がったくろの幼い頃の姿を思い出したのかもしれない。あたしとくろはただ静かにはなれていた。