風邪をひいて咳が出てこまる。
電話してきたのはお庭番の猫。猫がというのも変な話だが、お庭番をしてると、朝番水をやって猫を追うその庭のある家の住人が気になるのもわかるだろう。
とにかくそんな感じだと電話してきた。
汗はどうだときくと、ちょっとみてくるといってしばらく待たされた。
あびたように汗みずくで、ひっきりなしに着替えたりふいたり、シャワーを浴びたりしているようだと知らせてきた。
そんなに汗が出て、ぐったりはしてないかと聞くと、まあせっせと汗をふいたり着替えたりシャワーを浴びたりしてるからそういうこともないだろうときた。
越婢加朮湯をのんでみたらどうかな。
ふむふむ、ほんならそっと枕元に置いてみる。
そんな相談をして一日たってきいてみたら、咳が楽になってなんだか安心したということだった。
泡立つようにもりあがってきていた汗疹が、おとなしくなったらしい。
そうか、汗疹はいつだっての彼女だけれど、盛り上がって赤くなっていたか、それにはきっとよかったのだろう。と思った。
夏風邪には、白虎湯のほうがよかったかしら、とか思ったけど、すっきりしてしまったらしいから、どっちの方がよかったのかは分からずじまいだ。
しばとらは、風邪というほどのことはないが、寒いとも冷えたとも思わないまま、鼻水がちょろりちょろりとでることがある。ふいてもまた出るものだからいやだというから、冷房に当たってるのだから桂枝加朮附湯でも飲んでみたらよかろうといった。
さっそく、ちょろりちょろりが出てきたころに飲んでみたら、思いがけず中の方から温まってきたかと思うとざあっと汗が出て鼻水はとまってしまったそうだ。
温まってみて冷えてたんだなあと再認識したらしい。
家庭内裸族に濡れタオルを背負って冷やして、出かければ冷房にあたるのだから、冷えないわけがない。
猫は毛皮をまとってちょこっと湿らせるくらいで、風通しのよいところや、空気のちょっと冷える水際、木陰で昼寝を決め込むから夏場に冷やすなんてこともない。
だがヒトときたら、木陰も落ちないほど、木は刈り込む、風が冷えることも無いほど、室外機から熱風を吐きださせる。焼けたアスファルトの熱気と熱風で灼熱の外気と、エアコンのきいた冷えた室内とを行き来するのだから、あつけで倒れなければ冷えてるに決まってるじゃないか。
マンションヒトのしばとらには、附子も要ったけれど、土の木と藁でできた、木陰をとおる風のある家に暮らして、汗を流していた、お庭番猫の相談の彼女には、越婢湯にしろ白虎湯にしろ熱をさばく石膏は要っても、冷えた体を温める附子は要らなかったようだ。
