ブログネタ:恋の思い出、視覚に残る?臭覚に残る?聴覚に残る? 参加中あたしが白猫をやめてからのこと。
同居人は引っ越してあたしの行ったことのない部屋に暮らしていた。
あたしは一緒に引っ越すはずだったけど、突然に心臓が止まって、赤い首輪と写真だけしか一緒には行けなかった。
同居人は、
思い出しすぎると天へいけないと言うけれど、見えなくてもここに居てくれるならうれしい。
と写真に向かって語りかけた。
その部屋には、前の住人が置いていったトイレットペーパーホルダーがあった。
トイレットペーパーを引いて、カラカラと回ると、電子音オルゴールが鳴るものだった。
猫はトイレットペーパーを引くものだ。
すべての猫がとはいわない。
白猫だったあたしは、トイレットペーパーを引く猫だった。
だれも使わないトイレで、不思議にも電子音オルゴールが鳴ることが何度かあった。
同居人は、
あのこがついてきてくれている。
と考えた。
カラカラとペーパーを引くあたしの姿が同居人の脳裏に鮮やかに浮かんでいた。
そいうのって・・・視覚に残るっていうのかな? 聴覚に残るって言うのかな?
オルゴールが聞こえるたびに同居人はあたしを鮮烈に思い出したけど、あたしが引いてオルゴールがなったことなどないのだ。
ただ、カラカラとペーパーを引く姿と、ペーパーを引くと鳴るオルゴールとが結びついただけだ。
思い出・・・
いいや、その頃、同居人はのべつ間もなくあたしを思っていた。
廊下を歩けば足元をすりぬけるあたしの感触を思い出していた。
小さな頭痛に伴う耳鳴りは、いつだってあたしの甘え声だった。
あたしのにおいを洗い落とさないようにそっとしまってあるセーターがあった。
年月を経て同居人はその部屋をでた。
いまあのひとがどんなふうにあたしを思い出しているのか、いったいあのオルゴールを鳴らしたのがあたしだったのか、今はもう分らないし、忘れてしまった。
あのひとはあの白い猫に恋をしていたのだ。
