ブログネタ:ペットの名前は? 参加中
あたしが黒猫だった頃、一緒に暮らした女の話をしよう。

あたしとその女が出会ったのは、梅雨頃のコインランドリー。

歯も生え変わらない子猫だったあたしは、母猫とはぐれてそこにいた。

あたしの鳴声に応え、湿った空気でかさを減らしたあたしの毛を温かい手で触れながら、あたしの声をなぞった。

洗濯機が止まるまで、乾燥機が止まるまで、洗濯物をたたむ間はふわふわのタオルをあたしに一枚くれて、それから誰かがあたしを迎えに来ないか・・・ありったけの待ち時間つぶしの漫画雑誌に目をとおして。

「雨の晩だから・・・こうちゃんちにおいで、泊めたげる。」



そのまま、彼女はあたしの同居人になった。

1週間たたないうちにあたしはさちこと呼ばれるようになった。
たいていは、さっちゃんって呼ばれた。
たまには、このさちこはっ!って大きな声で呼ばれた。


毎日、あたしと新聞紙を破ってあそんだあたしのペットの名前はこうちゃん。
毎日、あたしとかつぶしを分けて食べたあたしのぺっとの名前はこうちゃん。

あたしが死に掛けていたとき、見回りにも行かず、狩もサボってひきもっていたあたしのペットの名前はこうちゃん。

後になっては、あたしの子猫たちのベッドで必ず一緒に眠ったあたしたちのペットの名前はこうちゃん。

子猫が育って、子猫のペットに残してあたしが野猫になる日まで、あたしをさっちゃんと呼んだ。
子猫たちのねぐらに帰らなくなったあたしを

さっちゃん さっちゃん 

と泣きながら呼んで探していた。

その日までのあたしのペットの名前は こうちゃんだった。



それからあたしは、ペットをもたない黒猫になった。