あたしはいつだって猫として人間の隣で生きてきた。
鯖トラの猫として生まれたのは、大阪の南堺の街角だ。
白猫として生まれ、窓から野良友達と鳴き交わしたのは、どこかの社宅の今では見ることも無い重いスチールのサッシの窓だった。
黒猫として生まれ同居人と出会ったのは、雨降る夜のコインランドリーだった。
魔女の手下をつとめた頃も、呪いも救いもする人間のそばだった。
猫というものは、そういうものだ。
愛されることも、憎まれることもあるが、ひとのそばに棲息し精進する仕事をもつように生まれてくる。
失恋した気晴らしに、人里を離れようとは思いもしない。
ただ、失ったもので空いた隙間をしばらく埋める騒がしさが欲しい。
ちょっとだけ違う見知らぬものと出会い、いつもと違うゴミ箱をあさって日常を忘れる。
それくらいの街遊びがいい。

