「クウ、気づかずにごめん、私を愛してくれてありがとう」

 5日の夕方、東京から帰って来ると、クウが隣の家の駐車場にいた。いつもより低い声で、何度も鳴いていた。ドアを開けて待っていると、クウも家に入ってきた。この時は、いつものことなので、さほど気にも止めなかった。
  夜12時頃、寝ようとして横になると、クウが近づいてきて、私のまぶたを爪で引っ掻いた。痛いのでびっくりして起きたが、眠くてまた寝ようとすると、今度は、私の腕に噛みつき、皮を弾くように、何度も噛んでくる。これでは、寝れるわけもなく、起き上がって、リビングに行き、エサをあげたが食べない。息子がよく食べさせている半生のエサをやってみたら少し食べたが、今度は玄関に行き外に出たいと言う。ドアを開けると外に出て行った。これで、寝られると思ったのもつかの間 、和室の窓の外から、クウの鳴き声が聞こえる。 窓を開けると入ってきた。また、リビングに行くが、何を食べたいのか分からず、息子を呼んだ。彼は、いろんなエサを試して、クウに食べさせたが、すぐに飽きたようだ。明日の朝、夜行バスで帰ってくる娘を迎えに行きたいので、午前1時半ころ、息子の部屋でクウを預かってもらうことにして、やっと寝る。
  6日の朝、昨日のクウを思い出し、もう年だから呆けて来たのかもしれない。夜眠れず私を起こすことがあったとしても、最後まで介護しようと思った。クウは、大事な家族だから。
 職場でTさんにクウの話をすると、Tさんも同じ体験をしていた。旅行で、知り合いにワンちゃんを預けて、引き取りに行った時、すごく吠えてきたそうだ。知り合いの家の柴犬と仲良しで楽しく遊んで来たはずなのに、自分の相手をしてくれなかったと怒るそうだ。  クウは、いつもいっしょにいて、可愛がってくれる私がいない寂しさをこの二日間感じていて、また会えて嬉しいと思っているのに、私は、それに気づかず、家の用事優先でバタバタしてさっさと寝ようとした。クウは、私の素っ気ない態度に落胆して怒ったのかもしれない。
 夕食の後、ソファでテレビを見てるとき、クウが横に来て、私の膝に顔を乗せた。私はクウを両手で持ち上げて、お腹に乗せて、両腕でギュッと抱きしめた。クウは、私の目をずっと見る。私もクウの目をずっと見る。私は、心の中で、「クウちゃんありがとう」と言う。クウが目を閉じて満足するまで、見つめ合いは続く。今まで15年間、ずっとしてきたことだけど、クウに怒られて、クウの私への愛情のほうが、私の愛より大きいことに気づいた。夜、寝る時も、クウが来てくれて、クウは私の腕を枕にして朝まで一緒に寝た。
 私が仕事から帰ると必ず、私の車を見つけて寄って来てくれる。駐車場にいる時もあれば、隣の家や、少し離れた道路から車の後を追いかけて来る時もある。今思えば、ほぼ毎日、クウは、私を待ってくれていた。私は相思相愛と思っていたけど、クウの方が何倍も私に無償の愛をくれていた。クウちゃん、今まで、私を愛してくれてありがとう。クウの愛に気づかなくて本当にごめん。これからもずっと一緒だよ。もっと、もっと、クウを大事にするからね。本当にありがとう。