横浜刑務所。
この日に一人の男が満期放免で横浜刑務所から出てくる。
放免と言えば女の入る世界ではない。
同時刻に新潟刑務所からも満期放免の男がいた。
この二人は私が獄中で引いた人間だ。
身分帳に身内だと載せてもらい手紙のやり取りはしていた。
右翼を結成するのに、どうしてもこの二人が必要だった。
どちらも根をあげない従順に親に仕える極道だ。
S会からI会にこさせた。
放免の日になって、はたと気がついたのだ。
私以外誰も顔を知らない。写真も無い。
組長が私に言った。
「ひろみ、お前迎えにいけ・・・・」
「そうね、わかったわ。」
こんな軽い会話で放免の日に私が出迎えに行くことになった。
放免の日・・・・
新潟にはサギさんが行った。もう一人の顔を知ってるからだ。
私は夜も明けない4時ごろから横浜に向かう準備をしていた。
組の事務所に行くとなにやら賑わっていた。
活気がある。
外が小雨で、若い衆が赤い番傘と組の細長い提灯を出していた。
私はその敏速さに黙って眺めていた。
放免を待っている男は外でこんな騒ぎになってるとは思わないだろう。
組長はあちこちの電話で忙しい。
県外からもやってくるらしい。かなりの人数になるだろう。
この男の為ではない、組長の顔なのだろう。
夜明け前に私は車に乗って横刑の裏門についた。
外に出ると、かなりの台数の車がいる。
こんな場合、早く放免してくれるのだ。
近所の手前もあるのだろう。
私は組長に番傘を1本渡されて狭いドアを開けてもらい中に入った。
静寂だ。こんなところにいたのか・・・・・
その日に出る人間は数人いた。
それで、身内を間違えてしまったら困る。
極道一生の恥だ!
私が着替え室に入るとUの前に立った
「長かったわね、お疲れ様」数年の歳月が消えた。
その顔に安堵感があった。
私は私服と、右翼の隊服の二つを持って入って行った。
Uに言う
「貴方の選ぶべき服を着なさい」
迷うことなく隊服を素早く着た。
「外ではたくさんの組の人が待ってるから、おじ気つかないでね」
Uの顔が赤く高揚した顔になった。
これまで懲役太郎で放免はいつも数人の出迎えだろう。
無理も無い。
私も寒さのせいではない武者震いがしていた。
雨も小雨のままで私たちは1本の赤い番傘で横浜刑務所の出口に向かった。
外は静まり返っていた。
誰もいないのか・・・そんな静けさだった。
先にUを出した。
その瞬間に
「ご苦労様です!!」
なんと言う大きな声だろう。
Uは立ちすくんでいる。
私は出口から出ると灯がともった長い提灯に番傘を持った組関係の人間が、知らない男の為に塀を背にして頭を下げている。
「これが放免か・・・・・・」
再び妙な快感だった。
私は心の中でつぶやいていた。
まるで映画の世界だ。
組長の人脈もあった。
そのまま解散して放免の義理も終わる。
組長は私の亭主だ。
「ひろみ、あの男、使えるな・・・」
何を思ったかそんな事を言った。
後にUは私の亭主になる。
組長の亭主は殺人で刑務所に入る。
あの男は私の亭主として使えると思うことにしよう。
その後の消息は調べればわかる。
でも私は今のままでいい。
ただ、放免とは男の世界だとはっきりわかったものだ。
こんな経験は二度とない貴重なものだ。
この日全員が、私も含めて防弾チョッキを着ていた。
不義理をした引き抜きだったので、各方面から脅しの電話や電報、手紙が届いていた。
そんなものを気にしていたら極道も務まらないだろう。
しかし、皆自分は可愛い。
一番狙われ安いのは出口から出てくる私ではないか・・・・・
ヒットマンがいたら的中率は高い。
*私はこの件で後に指を詰めた。