大阪まで仕事に行った。


当時結婚するはずだった男とだ。


午後6時頃に新幹線で行き、そのままホテルに荷物を置いて北新地へ遊びに行く。


仕事と言うと体裁がいいが、簡単に言ったら土地ころがしだ。


それは話すことではないので書かない。


新地の夜は初めてだった。


男はどこに行こうかと私に聞く。


「あそこの大きなキャバレーに行かない?」


「そうだな・・・」


そのまま名前は忘れたが大きな店に入った。


男は岡本と言う名前だ。


岡本の風貌は誰が見てもカタギには見えないのだが、組織になどは入ってない。


その風貌の岡本と私は広い店内のボックスに座った。


呼びもしないナンバーワンだという生駒と言う名前の大年増の女が着物を着てスルリと座る。


私たちに金の匂いがしたのかも知れない。


分厚い札入れを見た生駒がニヤついて言った。

「面白い遊びしていきません?終わったら近くのお好み焼きやで待っててください」


そう言って一指し指を鼻にあて、横にすべらせる。


博打の合図だ。


関東も関西も変わらない。


岡本の目が光った。賭け事は嫌いではない男だ。


約束の時間になると生駒がやってきた。


歩いて5分もかからない麻雀屋の二階に連れて行かれる。


玄関には粋のいい若い衆が、下足番をしている。

下足の札をもらう。

ただでは帰れない殺気を感じた。


博打場の襖を開けると、映画で観るような長く白い賭場がある。


ここは手本引きの場だ。


関東ではあまりやっていない。


知れば知るほど奥の深い賭け事だと私は思っている。


6枚の木札に金を張り、サイコロを振って、その目を手の中で引く。


その1枚を当てる。


簡単に言うとこんなものだが、私には説明ができないほどに面白い。


金の賭け方、金の置き方、金の降り方・・・・


全てに決まりがある。


1時間ほど見ていて要領が分かった岡本は早速賭場の中に入った。


1時間、2時間・・・時間が過ぎていく。


負けてばかりいる岡本は、持っていた200万を全て賭けていたが底をついた。


それで気が済む男ではない。


腕にはめていた時計を形に、50万を胴元から借りた。


その頃は面白さも分かっていたのだろう。


どんどん目の前に金が木尺で押されてくる。


最低が5万からだ。


早い博打でもあるし、頭を遣う博打だ。


みんな目つきがおかしい。壷振りの目を見て読むのだ。


私は後ろでその様子を見ていた。


張った張った・・・揃いました。と言う声でシーンとする。


張り方は花札の大きさと同じ1から6までの模様の枚数を手にしてる。

任天堂が作ってるものだ。



時間は気がつくと朝方になっていた。


借りた50万を返して総額450万の儲けだ。


生駒と言う女は最後まで見ていた。


このときの私はシャブも抜けて素面だったが目が冴えていた。


こんな賭け事があるのか・・・怖いとも感じたものだ。


勝ちすぎて、帰りは帰してくれるのだろうかと少し心配にもなる。


生駒と言う女に何割か金を渡した。

それで少しは安心もしたのだ。

当たり前のようにうけとっていたが、それが生駒の稼ぎなのだろう。


私と岡本は朝の6時に下足番から靴を出してもらって急いでその場を去った。


朝の新地は人通りも無く、私と岡本は誰かに付けられていないかと、振り返りながらホテルまで戻る。

それ程に緊迫した雰囲気の出来事だ。


すぐに帰ることにして、450万を二人で眺めながらホテルの滞在時間10分だ。


しかし手本引きの札は記念にもらってきた。


それも関東のガサで4課が珍しいと言うのであげてしまう。


その後大阪には行ってない。


今もその賭場はやっているだろう。



岡本と暮らしていたが、今は大きな組織の組長になってる男と仲間との縁が切れていなかった。


そんな私の付き合いがバレて岡本は思いっきり私の顔をめがけてぶん殴ったのだ。


片目の白目が破裂して真っ赤に血が出てきた。


そのまま家を飛び出して仲間のところに行った。


若き日の組長は木刀を持って岡本を襲撃したのだ。


これは今でも語り草になっている。


私も目から星が出る経験は初めてだ。

真っ暗になってピカピカと星が見える。


いくら博打が強くても女に手を上げる男は駄目だ。


とっとと別れてしまった。

カタギの岡本は450万を貯金しとけと言った。

通帳は私が持っていた。



450万は黙って頂いてきました。


私は行方不明ということで・・・・・


その2年後・・・・渋滞する川越街道で隣に停まった車を見たら岡本だった。


渋滞に感謝をしたのは後にも先にもこの時だけだ。


アメ車に乗っていた私は、横目でチラッと見てそ知らぬ顔をしていた。


450万は星を見させてくれた代金だ。


文句があるか!岡本。


目玉から血が出ると言うのは痛いのだ。

それ以降、岡本に会うことはない。


しかし手本引きとは最高に面白い博打で、頭は遣ういい博打だ。


博打に興味のない方はつまらない話で申し訳ない。


私は昔から言われた

「ひろみ、お前はシャブをやると博打で身を滅ぼすぞ」

それ程にのめりこんでいた。


普段、計算はのろいが、サイコロの掛け金の計算だけは速い。


今は昔のいい想い出だ。