全てはこの1本の日本酒から始まった。


元亭主は懲役から帰ると、必ず中でフリーのヤクザを事務所に呼んでいた。


「今時、英語ぐらい喋らないでどうするんだ!」


そう言って来たのが日本語が分からない外人だった。

意味が無い。


初めて覚えた日本語は「これ、いくらですか」


私がシャブの小分けをしてると客が来る。

客はネタを見ながら

「これ、いくらですか」と聞く


それを覚えたのだろう

名前が呼びずらいので「新之助」と言う名前をつけた

まるで、歌舞伎役者のようだが、本人も気に入ったようだ。


暫くは掃除当番で、使いっぱしりだった。

亭主はハクを付けるために、用も無いのに新之助を同行させていた。



そんな中にもう1人の男がいた。

懲役から拾ってきた詐欺師だ。

それなりの考えがあってのことだろう。

詐欺師は人を騙すのだから、その逆を知りたいのだ。


詐欺師もなかなか手ごわい。

ただの詐欺師ではなかったのが後で分かる。


N県で幻の銘酒が1本届いた。


前に世話になった組長からのお礼だと言う。

当時はかなりてに入らなかったものだから皆喜んでいた。


私達は、その銘酒を眺めながら1人づつ手渡していた。


「重みがちがうね~」

「さすが色も違う!」

様々に知りもしないで好きなことをいっている。


机の上にドンと置きながら皆で酒について喋り始めた。


1時間もしただろうか。

さっきから黙っていた詐欺師が言った


「1本はおかしい・・・・・」

皆が詐欺師を見てる。


業者が1本送ってきたのになぜおかしいのだ・・・・


「いい組長がいくら銘酒とはいえ、1本送ってくるか?」

「普通は2本からだろう・・・」


皆の目がギラッと光った。


さっきまでの和やかな雰囲気などまるで無い。



詐欺師は業者に早速電話を入れる。


皆、何を言うのだろうと目が詐欺師にクギづけだ。



「○○のモンだけど・・・さっき届いた荷物、先方にお礼の電話をしたら2本送ったって言うんだよ。これはどう言う事だよ!!」


組長に電話などはしてなかった。


こんなやりとりを私達は見ていた。


そうか、ヤクザが1本ってのは確かにおかしい。


業者が折れた

「すみません!配送の途中で落として割ってしまいました」

平謝りだ。場所もヤクザの事務所。


詐欺師は誇らしげに言う

「同じ酒と損害賠償だな~、慰謝料もつけてもらうか」


業者の立場は弱い。

当たり前だ。

こっちが黙っていれば、闇に葬られていた。


送ってくれた組長にも「1本ですか」なんて聞けない話だ。


私がM警察に恐喝で入った時も、組のサギさんが酒を2本縛って刑事部屋に持ってきた。

刑事は当たり前のようにもらう。



結局業者2人で謝罪に来た。


ヤクザの事務所に入ってからハンカチで汗を拭いている。


「それにしてもさすがに、荷作りがうまいな~」

ドスの効いた低い声で軽く威圧している。


あとから同じ銘酒を2本と金を包んで持ってきた。


私達はさっそく3本の酒をペロリっと飲んでしまう。


さすがに詐欺師は目の付け所が違う。



このあとに、詐欺師を私の運転で送った。


朝方の5時過ぎだ。夏の盛りで夜明けも過ぎていた。

前に止まっているベンツに小さくコツン」とオカマを掘ってしまった。

(ヤバー~、ヤーサンだ。自分も同じ穴のもんだが・・・ここは引かねば・・)


みるからにヤクザだ。

4ドアーの車が全部開いて、皆が私達に向かってきた


逃げる・・・それしかないだろう


急発進をしてベンツの横をすりぬけて裏路地に入った。


時速120㌔だ。


ベンツもピタッと追いかけてくる。


道の途中でタクシーが顔を出した。

バンパーをふっ飛ばしてしまった。

まるで映画だ。


車はベンツにタクシーの2台になった。


私は知らない道を左折した」のだ。

そこには鉄柱があり、その鉄柱に激突してしまた。


近所の人間がパジャマを着たまま見ている。


パトカー、レスキューもきた。


何しろ、詐欺師の足が車体から出てしまって出せなかった。

私もハンドルに胸を強打して肋骨を骨折してるのが分かった。


パトが来たら、ベンツは逃げて消えた。

中に指名手配がいたらしい


タクシーには10万で示談をした。


私は困った、車を解体されてる間にシャブをどうするか考えていたのだ。


刑事が近寄ってきた。


焦る・・・・・刑事の人相が悪いのは相場だ




*荷物は信用出来ない。私は黒い猫が嫌いになった。


                                            次回に続く