既に1月中旬に終わった ロサンゼルス郡ゲッティ•センターのウィリアム•ブレイク展、 今さらながらご報告。

テート•ブリテンからはるばるやってきた作品群を中心に、イェール•センター• フォー•ブリティッシュアート、ハンティントン•ライブラリーからの貴重な収蔵品の数々、情報量が多くて圧倒された特別展でした。


いつものように、特別展のある建物への階段には画家のアートが。
ウィリアム•ブレイクの生み出した神話より。「ユリゼン」

ウィリアム•ブレイク(1757~1827年)、ラファエル前派の画家達が絶賛していた関係で、そっち方面から興味を持った私ですが、知らないことだらけだったお陰でかなり楽しみ、ハマってしまいました。

絵や詩集、預言書で有名なだけではなかったのです。

知らなかった事。

ウィリアム•ブレイクの本業は銅版画印刷屋だったこと。
当時は詩集、絵より、主に銅版画印刷の収入で生計を立てていたそう。

自分の作品を印刷するお金もないから、自分で独自の印刷方法を生み出し、安く済まそうと印刷を始めたところ、その技術が買われ、本業となったそう。
第三者を通さず出版出来る、
ひょっとしたら自主制作出版の元祖??

例えば、このウィリアム•フォガースの<Beggar 's Opera , Act lll > の元の絵。


この絵を依頼され、ウイリアム•ブレイクがエッチング、エングレービングし、印刷したものが下の作品。
(1790年)

細かいです。
内装デザインは、ブレイク版の方が良い?


こちらも、Henry Fuseliという人が 「ミケランジェロの絵をプリントしてくれ」とペンでサラサラとイメージを描いた物 下差し

これを元に、デザインして、印刷したもの下差し

えらい男前に変身してるし、背景もいい感じに仕上がって印刷されてます。
(1788年頃)


そんな感じで、銅版画印刷の依頼は多くあり、数々の作品が残っているようです。


とはいえ、正統派とは言えないデザインに賛否両論もあったようで、一時期所属していたロイヤル•アカデミーでは学長のジョシュア•レイノルズに反発したため支持を得られず、画家としては仕事もなく大変だったそう。
(私もジョシュア•レイノルズのような正統派の方が好きなんですけどね。。)

それでも、我が道を行った人生、格好いいです。

統合失調症があったり、幻視者(この展覧会のタイトル" Visionary ")だったり、降霊が出来、歴史上の人物に会ったりした、などのエピソードがある彼独特の世界観溢れるデザインは、理解不能だからこそ興味深い作品になっています。


現代美術なら不思議ではない作品スタイルも、今から200年以上前には理解されなかったハズ。
日本はまだ江戸時代。

江戸時代に下下差しのような絵なんだから、新し過ぎる。

1823年にイギリスの画家 ジョン•リンネルから依頼され作った作品。

「ヨブ記」(1825年印刷) のイラストレーション数作品。 エングレービング。


この絵、好きです。
一応 喜びの場面。


ベヒモス(上)とレヴィアタン(下)


これなら絵本のようで読んでみようかな、と思える。

「ヨブ記」の制作が終わると、今度は1824年に同じくジョン•リンネルが ダンテの「神曲」を依頼。

残念ながら「神曲」のイラストレーション完成前に、ウィリアム•ブレイクは亡くなってしまいます。

「神曲」より。

「Cerberus」ケルベロス

「The Punishment of the Thieves 」盗賊の処罰(上)
「The Serpent attacking Buoso Donati 」ブオーゾを襲う蛇(下)


 「The wood of self murderers」自殺者の森


「The Pit of Disease : The Falsifiers」悪疾の獄に動く偽造者達


「Dante and Virgil approaching the angel who guards the entrance of Purgatory 」煉獄の門を守る天使に近づくダンテとヴィルジリオ

先程も書いたように、このダンテの神曲 の制作途中で亡くなってしまうわけですから、未完成の絵も多く、上の天使(おじさんなんですね?)も下絵状態。

「The Ascent of the mountain of Purgatory 」
煉獄の山に登るダンテとヴィルジリオ


「Beatrice Addressing Dante from the car」
ダンテに声をかけるベアトリーチェ

以上、「神曲」から。
展示はもう少しありました。


有名な作品群。

シェイクスピアの「真夏の夜の夢」からの
「Oberon, Titania, and Puck, with Fairies dancing」
( 1786年頃 ) 水彩、グラファイト

妖精のイメージの元祖とも言われているそう。


「Christ Blessing the Little Children」(1799年)
テンペラ

子供達小さい。


「ジェイムス•ハーヴェイの"墓場の瞑想" の概要」(1820~25年 頃) インク、水彩、ゴールドペイント

イギリスの神学者 ジェイムス•ハーヴェイの宗教的瞑想を要約して描いた絵だそう。

後ろ姿で立っているのはジェイムス•ハーヴェイだと言われてます。

その本は読んでないけど、解説に書いてありました。
早すぎる死を哀しみ、復活を願い、楽園への階段の下にいる人物。
楽園で、又 愛する人に再び会えるのでしょうか?


階段といえば、私が初めて知ったウィリアム•ブレイクの絵も階段でした。
残念ながら、この展示会には来てませんでしたが。
「Jacob's Dream」


展示に戻って。。。

「Hecate,( or Night of Enitharmon's Joy)」
(1795年 頃)

月と魔術、夜と暗闇などの女神ヘカテ、もしくは、ブレイクが作りだした神話の中のキャラクター、エニサーモン。



こちらも有名です。
「Nebchadnezzar ネブカドネザル」1795~1805年頃

「ダニエル書」のバビロン王 ネブカドネザルの堕落を描いたもの。
四つん這いになり、毛も生え始め、爪も鋭く伸び始め、野獣化していく狂気じみた王の姿。

筋肉も野獣のようにモリモリと。


インパクトありすぎる絵でした。



「Satan Exulting over Eve」 1795年

イヴの陥落を歓喜しながらホバリングするサタンの図。

イヴに巻き付いた蛇が見事です。


とても普通の人っぽいサタンですよね?



「ノミの幽霊の頭」1819年
鉛筆画

ノミの幽霊?
と思われるでしょうが、これはウィリアム•ブレイクの目の前に何度も現れたという幻視体験での幽霊。

占星術師であり友達のジョン•バーリーが、ブレイクの幻視体験に興味を持ち、ある日降霊会を行った際、目の前に出てきたノミの幽霊を鉛筆で描いてもらったそう。

その最中、ノミの幽霊が急に話始め、ブレイクに「ギザ歯と舌のクローズアップにもっとフォーカスして描きなさい。」と言ったそう。

そうして出来たデッサン画。

ジョン•バーリーに頼まれて他にも降霊してきた幽霊を鉛筆で描いた シリーズもあります。

ノミの幽霊の全体像。

「ノミの幽霊」1819~20年
マホガニーの上にテンペラ、金で。

鱗のある奇妙な生き物です。
幽霊自身が「手に持った入れ物には 獲物の血が入っている」と告白したらしい。

足の間に 小さなノミも描かれてます。
展示横の説明文を読まなければ見逃すとこでした。

この絵は有名ですが、凄く小さくてビックリ。
縦20センチ程です。

アイアン•メイデンのブルース•ディッキンソンのソロアルバム「The Chemical wedding 」のカバーにも使われている。



亡くなる前の最後の2年間は、「創世記」にもとりかかっていたそうです。

未完成の作品中、カリグラフィーではない下書きの文字が見れるのも貴重。





タイトル画 その1

創世記 GENESIS とタイトルがデザインしてあるんですが、アダムは普通、葉っぱ等で
恥じらいの部分を隠してるのに、
ブレイクはフンドシで!?  
さすがブレイク! 
斬新!!
って思ってたら、よく見たら アルファベットの 「I」でしたあせる

次のもフンドシに見えて仕方がない。

タイトル画 その2


長くなったので、残りは次回に。
彩飾印刷で手掛けた預言書や詩集などを紹介します。

星星星星星

ウィリアム•ブレイクに影響された芸術は現在も色々な所で登場します。


この展覧会を観に行った1週間後、全く知らずに観た映画「The House that Jack Built (ハウス•ジャック•ビルト)」にもブレイクの絵が随所に使われてました。

家族で「おぉー、ウィリアム•ブレイク!」と観たばかりだったので盛り上がってしまいました。

この映画、強迫性障害を持ったジャックがシリアルキラーになるサイコホラー映画なので
そんなにお薦めするわけにはいきませんが、
マット•ディロンのサイコぶりがとても良かった。

序盤は理解に苦しむ映画だけど。。。
主人公のジャックが見えない誰かと喋ってるんですよね。
で、私は途中でやっと声の主の正体に気付くのだけど、そうすると、どんどんダンテの「神曲」っぽい世界になり、面白くなりました。

映画後、息子に 「後半やっと意味が分かったわー。」と言うと、
息子「俺、最初から分かったよ。」
私 「えぇー、凄いなー。すぐ気付いたん?」
息子「ネットであらすじ読んだからな。」
だそう。

映画は予習して観るらしい。

結末が分かっても気にしない。

確かに、この映画に関しては、知ってた方が楽しめたかな。



• • • 次回に続く。