じこ報告書 -400ページ目

自己報告

魚屋から家までは、道が混んでしまうと30分はかかる。


「鯖は傷みやすい。」


オレは呪文「サバイタム」を唱える。

車内で何度も繰り返しながら、車を飛ばした。

戦う前から負けたくはなかった。


15分後に帰宅。

数分後には、出刃包丁を手に、返り血を浴びているオレがいた…


戦いは始まっていた。




とりあえず三枚におろす。

しかし、「とりあえず」とは言ってみたものの、実際に魚をおろすのは云年ぶりだった。

「サバイタム」の呪文を再び繰り返す。

急がなければならない。


「そこに鯖がいたから…」


途中、ベタな模範回答を呟いてみたりもする。

当然独り言。

ここは高倉健。


乱入してきたアドバイザーが参戦し、何とか三枚におろすことに成功する。

上出来だ。


切り身を味噌煮に。背骨付近を塩焼きにしていただく。

上出来だ。




…あっという間に戦いは終わった。

手に残る血なま臭さが、程よい達成感へと導く。


何の変哲もない平日のランチ。

オレは「上出来」を「だきょう」と読むことを学んだ。