自己報告
魚屋から家までは、道が混んでしまうと30分はかかる。
「鯖は傷みやすい。」
オレは呪文「サバイタム」を唱える。
車内で何度も繰り返しながら、車を飛ばした。
戦う前から負けたくはなかった。
15分後に帰宅。
数分後には、出刃包丁を手に、返り血を浴びているオレがいた…
戦いは始まっていた。
とりあえず三枚におろす。
しかし、「とりあえず」とは言ってみたものの、実際に魚をおろすのは云年ぶりだった。
「サバイタム」の呪文を再び繰り返す。
急がなければならない。
「そこに鯖がいたから…」
途中、ベタな模範回答を呟いてみたりもする。
当然独り言。
ここは高倉健。
乱入してきたアドバイザーが参戦し、何とか三枚におろすことに成功する。
上出来だ。
切り身を味噌煮に。背骨付近を塩焼きにしていただく。
上出来だ。
…あっという間に戦いは終わった。
手に残る血なま臭さが、程よい達成感へと導く。
何の変哲もない平日のランチ。
オレは「上出来」を「だきょう」と読むことを学んだ。