人気者
ハンドルを右に切ると大きな駐車場が広がっていた。
入口付近は混み合っているため、少し離れた場所に車を進める。
ここなら他の客も少なく、車も点々としかいない。
周り数台は誰も停めていないことを確認すると、
オレはスムーズにハンドルを切り返し、白線の内側に車を納めた。
さて、買い物に向かおう。
適当に買い物を済ませ駐車場に戻る。
そこには、目を覆いたくなるような光景が存在していた。
密着している。
車が密着している。
わざわざ、混雑を嫌って空いているところに停めたにもかかわらず。
車が密着している。
しかも、オレらの車の周辺は、先ほどまでと同様に空いている状態だ。
何故、空間的に余裕のある個所で車庫入れをしないのか。
自由に切り返しをしたほうがスムーズなのではないか。
オレは、この状況に陥るたびに頭を悩ませる。
「後部座席のガラスに3つ目のポールが見えてきたら、ハンドルを切ってくださいね」
教習所でこんな言葉を投げかけられたような記憶がある。
目標がないと駐車することが出来ないということか。
しかし、それならば入口付近であくせくしながら停めてほしい。
ただの嫌がらせだろうか。
ドアを開けるときの、このギリギリのスリルがたまらないとでもいうのだろうか。
少し待って運転手に尋ねてみよう。
こういう時、決まってそんな考えが頭をよぎる。
しかし、どのくらい待つかも分からないことで時間を割きたくはない。
オレは渋々、その場を後にする。
どうにも納得し難い状況に、最近はこう思うようになった。
オレって…人気者なんだなぁ。
オレのいるところ…すぐに人が集まってくるんだなぁ。と。
今日もオレは駐車場の隅で頭を垂れている。
人気者はつらい。